四百五十六話 そっちが心配になる
「ギーラス様、お客様がお見えです」
「? 分かりました」
宿屋の従業員から客が来ていると伝えられ、一回に降りると……そこには見覚えがある女性騎士がいた。
「ディーネさん、お久しぶりです」
「あぁ、久しぶりだな。ギーラス」
ギーラスの客とは……アルバース王国の第三王女、フィリアスの護衛騎士であるディーネだった。
「遂に父親と同じく、ドラゴンスレイヤーの称号を手に入れたな」
「自分としてはやや納得がいってない部分があるんですけど……そうですね。その点に関してだけは、一応父と並べられたかと思ってます」
互いに朝食を食べながら互いの近況報告などを軽く行い……約十分後、朝食が全てなくなった頃に、話は本題へと入る。
「ギーラス、今日は何か予定はあるか?」
「いえ、特にありませんが」
「それは良かった。それでは、是非ともフィリアス様に会って頂きたい」
「ふぃ、フィリアス様に、ですか?」
自分はアラッドではないのに何故? という疑問が浮かんだのは一瞬だけ。
直ぐに言葉の糸を汲み取った。
「アラッドから聞いた冒険譚を伝えれば良いんですね」
「その通りだ。頼まれてくれるか?」
「えぇ、お安い御用です」
歳下とはいえ、第三王女と面と向かって話すのは多少なりとも緊張感がある。
しかし、弟の武勇伝を自慢するのであれば話は別。
身支度を整えたギーラスは意気揚々と場所の前に停められていた馬車に乗り込み、とある喫茶店の前に到着。
そこは以前、フィリアスがアラッドと落ち着いて話すために選んだ喫茶店と同じ店だった。
「こちらでございます」
店員に案内された部屋には、既にフィリアスが椅子に座って待っていた。
挨拶もそこそこに済ませ、フィリアスは少々興奮した様子でギーラスにアラッドの冒険譚について、詳しい話を所望する。
「では、先ずはアラッドがギルド内で体験した、衝撃に一件からお話ししますね」
最初の強敵とのバトルと言えば、ドーピングによって超強化を行える特殊なオークシャーマンとの戦闘なのだが……ギーラスとしては、その前に起こった一件に関して……決して小さくない衝撃を受けた。
その一件とは、アラッドがいきなりDランクからスタートして、年齢にそぐわない実力や装備を身に付けていることに嫉妬したルーキーが引き起こしたもの。
「まぁ! アラッドさんにそんな事を……その、その様な愚かな発言をした冒険者は、生きていますか?」
どう考えてもアラッドの逆鱗に触れる様な発言をした冒険者……ギルが悪い。
それはフィリアスも重々理解しており、アラッドに非があるとは全く思えない。
ただ……フィリアスも一学生として、今年の夏手前頃に行われた大会での戦いっぷりは、今でも鮮明に思い出せる。
全く起こった状態でなくとも、恐ろしい程強い。
感情が強く出ていた決勝戦では、自身が所属する学園のトップである、貴族でありながら女王の二つ名を持つフローレンス・カルロストを撃破。
その激闘の中でも……激しい怒りという感情は持っていなかった。
そこに逆鱗に触れられた怒りが加われば、どのような結末になるのか……容易に想像出来てしまい、喧嘩を売ってきたルーキーのギルをやや心配してしまう。
(その気持ち、解らなくもない)
ギーラスも本人から話を聞いたときは、その場で弟が冒険者を殴り殺さなかったのかと心配に思った。
「アラッドも大人ですからね。虐めが過ぎるような行動をしなかったようです。それに、そのルーキーは冒険者の資格を剥奪され、ギルドから追放されました」
「そうでしたか。アラッドさんを怒らせてそれでよく済んだと思うべきか、刑が軽いような気がしなくもありませんね」
狂化のスキルを使用した状態が、アラッドが最終的にブチ切れた時の姿と思う者が多く……それはあながち間違ってはない。
「働き口を失った事を考えれば、それ相応の罰が下ったと言えるでしょう。そしてその後なのですが……」
そしてようやく冒険譚らしい話が始まる。
オークに群れである特殊な自己強化術を行うオークシャーマンとの戦い。
非常に珍しいモンスターであるユニコーンとの遭遇、クロと黒いケルビーのバトル。
墓荒しの黒幕を倒すために何日も奔走し、その途中で闇属性の魔斧を使用するミノタウロスとの激闘。
そして遂に突き止めた黒幕との戦いで、正真正銘の化け物であるAランクモンスターを相手に大奮闘し、本当にギリギリのところで勝利を掴んだ。
「はぁ~~~! 是非とも、間近で観てみたかったです!!!」
絶対に無理。周囲の人物が何が何でも止める。
国王陛下と王妃も必死で止める。唯一、フローレンス・カルロストだけはフィリアスの味方をするかもしれないが、おそらく止められる。
しかし、そんなフィリアスの気持ちを、護衛騎士であるディーネと低身長、ロリ巨乳騎士であるモーナも解らなくはなかった。
「あの、ギーラスさんの竜退治についても、お聞きして良いですか」
「え、あぁ~~~……分かりました」
少々苦笑いをしながらも、ギーラスは先日の一件を鮮明に思い出しながら、自身の武勇伝についても話し始めた。
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