四百五十五話 対価の基準?

「よぅ、ギーラス。ちょっと良いか」


「えぇ、大丈夫ですよ」


弟、妹たちとの食事を楽しんだ翌日、ギーラスは正装を身に付け、王城へ到着。

そして他の受賞者と同じく勲章を受け取ったのだが……勲章のランクは、ギーラスが一つ上だったこともあり、若干……若干ではあるが、他の受賞者たちから嫉妬の目を向けられた。


その後は王城内にあるパーティー会場の一つでパーティーが行われ……当然と言えば当然のごとく、ギーラスは各家の当主たちから「今度私の娘に会ってくれないか」という婚約系の話ばかりを提案され、色々とお腹一杯の状態に追い詰められた。


貴族の令息でありながら、二十一歳でまだ婚約者がいないというのは非常に珍しい。


問題があって婚約者がいないという訳ではなく、寧ろ非常に礼儀は整っており、騎士として……男としての実力は

申し分ない。


各家の当主としては勿論、自身の娘が正妻になってほしいという思いはあるが、それでも側室であってもギーラスなら娘を幸せにしてくれるという信頼が大きい。


「お前もさっさと女をつくれば良いんだよ」


「いや、そんな簡単に言わないでくださいよ」


そんな当主たちからの話に疲れていたギーラスの気持ちを察し、パーティーが終わった後、以前アラッドに生意気な新人騎士たちをボコボコにしてやってくれと頼んだ団長の一人、バルムルクは呑みに誘った。


訪れた場所は、会員制のバー。

代金は勿論、上司であるバルムルクの奢り。


「今回の一件で、お前の名前の強さや影響力が上がった。今まで以上に多くの女が寄ってくるようになる。そのためにも、さっさと正妻を娶って基準を示した方が良いと思うぞ」


「基準、ですか……でも、個人的にまだ良いなって思う人がいないので、なんとも……」


「贅沢な奴だな~。ったく、あんまり女の影がないのは弟のアラッド君と似てるな」


バルムルクの言葉に、ギーラスはほんの少しだけ口角を上げ、ニヤリとした表情でとある情報について話そうと……したが、ギリギリで踏みとどまった。


(危ない危ない。やっぱり、アラッドとしては言いふらされたくない情報だよな)


ギーラスにとってバルムルクは信頼出来る上司の一人だが、それはそれでこれはこれ。

話の種であるアラッドがバルムルクとどこまで親しいのか知らない為、マジットとの一件に関しては……とりあえず今回は黙った。


「まぁ、そこら辺は俺らがおいおいセッティングしてやるよ。あれだろ、女の好みもアラッド君と似てるんだろ」


「いや~それはぁ……どうですかね」


そんな事はないと断言しかけたところで、あれ? という疑問が生まれた。


「ところでよ……いや、パーティーの終わりに声をかけたのはこっちがメインというか」


「? アラッドを騎士団に引き入れたいという話ですか?? それでしたら、俺はあまり力になれませんよ。弟や妹たちの活躍はとても嬉しいですけど、やっぱりアラッドは冒険者として活躍してこそ輝くと思ってるので」


正直な話、アラッドはなんだかんだで騎士団でも活躍できるという確信がギーラスの中にある。


見た目は自分と違って、人によっては顔が良い悪役に見える。

そして闘争心や怒りが解放された状態になると、戦う様はとても騎士には見えない……かもしれない。


性格に関しても親しい友人や家族などが馬鹿にされた場合、激しい怒りの感情を抑えるのが苦手ではあるが、その怒りは物理的に放出するだけが解決手段ではないと解っている。


「いや、アラッド君の話ではない。個人的に入団してくれるのであれば是非とも入団してほしいとは思ってるがな」


「では、いったい何がメインのお話なんですか?」


「……パーシブル家の末弟についてだ」


「アッシュが、何かやらかしましたか?」


「そういう話ではない。まぁ、簡単に言えば彼を騎士団に勧誘したいという話だ」


メインの内容について、ギーラスは直ぐになるほどと納得がいった。


先日軽く手合わせをしたため、どれだけアッシュが以前の手合わせ時から成長してるのか感じ取り……レイ以上の衝撃を感じ取った。


「なるほど……しかし、アッシュは将来の選択肢に、今のところ錬金術師しかありませんよ。俺やアラッドがどうこう言ったところで、進路を変えるとは思えませんし」


「その信念は確かに立派だ。立派なんだが……あれ程の戦闘力を有していながら、最低限しか訓練に時間を割いていないのだろう」


「らしいですね。アラッドから聞いた話ですが、幼い頃に双子であるシルフィーとのタイマン勝負で、ボコボコのコテンパンに勝ったらしいですよ」


「つまり……天性の剣士、ということだと思わないか」


バルムルクの言葉に対して、ギーラスは残念ながら否定出来なかった。


(そうなんだよね~。俺たち兄弟の中で一番アラッドに追い付ける可能性があるのが、一番物理的な強さにそこまで興味がないアッシュなんだよな~)


ギーラスもアラッドやフールと同じく、アッシュが錬金術師としての道を進むのを妨害したいという気持ちは一切ない。

ただ……同時に、惜しいという思いは少なからずある。


「今まで通り訓練を続けても、余裕で騎士団の入団試験はクリア出来るでしょう。それでも、目標が変わるとは思えません……考えを変えて、一時的にアッシュに何かを差し出し、その戦闘力を借りるしかなさそうですね」


「ふむ…………なるほど。悪くない手だな」


「指名依頼、と言えば良いのでしょうか? それをクリアし良い評価を得られれば、質の良い錬金術に使える素材を渡す。妥協案としては、これが一番かと」


バルムルクがギーラスからの妥協案について真剣に考え始めた……そのタイミングで、ある事を伝える。


「因みに、アラッドは頑張ってるアッシュにドラゴンゾンビの骨の一部を好きに使ってくれと、渡しました」


「こ、この前倒したというあの化け物の骨か……いや、しかしあれ程の才を持つ者の力を借りるとなれば……」


予想外の報告に驚愕するも、やはり前向きに検討するべきという思考は崩れない。

現役の騎士団団長であるバルムルクから見ても、アッシュの戦闘に関する才はそれ程までに優れていた。

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