四百五十三話 現役騎士として

妹と弟と模擬戦を行い、その後は少し高めのレストランで二人にご馳走。


そして次の日……今度は中等部ではなく、高等部へ向かった。

ギーラスとしては授業が終わる時間帯に向かおうと思っていたのが、先日偶々中等部に来ていた高等部の教師に捕まり、少しお話をした後……朝から高等部の方に顔を出すことになった。


「こちらが明後日授与式に参加する風竜を一人で討伐した現役の騎士、ギーラス・パーシブル君だ」


「あの、あんまり仰々しい紹介は止めてくれませんか」


既に騎士としてのケツの殻は取れているが、ギーラスにとって一年生、Sクラスを担当する教師、アレクは先輩にあたる元騎士。

あまり強気な態度は取れない。


「もう知れ渡ってる事なんだから良いじゃないか。まっ、ということで今日の戦闘訓練にはそんなギーラス君に教師側として参加してもらう」


突然のサプライズに、当然レイたち生徒は盛り上がる。


弟であるドラングとしても、身内が教師として参加するという状況に恥ずかしさを感じることはなく、寧ろ有難いとすら感じていた。


(あれが、一年生ながら大会の準決勝まで勝ち上がったレイ・イグリシアスさんか。他の生徒たちも一年生にしては中々に実ってる……ふふ、ドラングも最後に会った時と比べて着実に力を上げてるね)


予定にはなかった臨時の仕事ではあるが、ギーラスとしてもワクワクするところがある。


「それじゃあ……ギーラス君、とりあえず全員軽く揉んでくれるかな」


「また無茶を言いますね。まぁ、ここで戦らないという選択肢はないんでしょうけど」


多少の文句を垂れながらも、特注の木剣を手に取り、ゆったりとした足取りで開始線へ向かう。


「クラスメートの身内だからといって、遠慮することはない。思いっきりかかって来て」


「は、はい!!!!!」


Sクラスの生徒たちは現在同じクラスに、同じ家名を持つ者があり……少し前までは、同じく家名を持つ圧倒的過ぎる正真正銘の怪物がいた。


元々現役騎士を相手に遠慮する余裕などないため、挑む生徒たちは皆鬼気迫る表情で挑む。


「皆良い気合いと技術を持ってるね。身体能力のレベルも悪くないそれじゃ……次の相手は、ドラングかな?」


「全力で……斬り潰すつもりでいかせてもらいます、ギーラス兄さん」


同じ兄でも歳上であり、敬意を持っているため敬語を口にするドラング。


「勿論、そのつもりでくるんだ」


その言葉が合図となり、開幕からスタミナを全て使い切るつもりで猛撃を仕掛ける。


(良いね。縛りがあるとはいえ、本当に俺に勝つつもりの攻撃だ)


大会終了後もアレクとのマンツーマン指導を受けており、その成果は確実に出ている。


今回の戦いではその全てを出すことは出来ないが、それでもドラングは大会時と比べて、全てのステータスが確実に上がっていた。


「技術や出力、読みだけじゃなくてしっかり身体能力も上がってるね」


「くっ!!!!」


戦闘中に喋り始める相手がアラッドであれば「調子に乗ってんじゃねぇぞッ!!!!!」と一言ぐらい暴言を吐くが、敬意を持っている相手ということもあり、挑発に近い態度を取られても怒りが口に出ることはない。


ただ……その怒りは間違いなく気迫に変わり、出力に影響を及ぼす。


(おぉ~~~~……いやはや、本当に関心関心。怒りに飲まれるかと思ったけど、きっちりメンタルも成長してるね)


確かにその面も成長しているが、相手がアラッドとなると……一気にヤンキーメンタルに変わってしまう。


「うん、本当に強くなったね、ドラング」


「ッ!!?? ……参り、ました」


最後の最後に下からの斬撃を綺麗に受け流され、カウンターとして急所に剣先を突き付けられ、終了。


ドラングは確実に以前と比べて成長していたが、それでもこの一戦は……長男の実力を改めて知るものとなった。

その後はベルたち七人組が順に挑んでいくが……勿論、全員敗北。


既に十人以上の生徒たちと連戦しているが、ギーラスは殆ど汗をかいていなかった。


「よろしくお願いします」


「うん、こちらこそよろしく」


そして遂に……現一年生の中でタイマン最強であるレイの番が回ってきた。


「…………ハッ!!!!!」


十秒ほど様子を窺ったのち、まずはレイから仕掛けた。


「ッ!? なるほど、これが噂の、剛力か!!」


初撃、ギーラスは敢えて斬撃を受け止めた。

吹っ飛ばされることはなかったが、それでも想像以上の衝撃を感じた。


事前にアラッドからレイという令嬢について話しは聞いていた。

令嬢とは思えない身体能力……というレベルの話ではなく、フィジカル面では優に令息たちを飛び越える。


(アラッドが、女王の異名を持つフローレンス・カルロストと同じぐらい実力を褒める、訳だね!!!)


ギーラスは少し弟であるドラングに申し訳ないと思いながら、警戒レベルを上げた。


仮にも現役騎士である、二日後に勲章を授与する者として……模擬戦であっても、うっかりというミスがあったとしても、まだ未来の騎士候補である学生には負けられない。


「ッ、参りました」


「はは。いやぁ~~、本当に強いね。アラッドが褒めるわけだね」


「っ……そ、それはどうも」


模擬戦であっても負けは負け。

当然悔しさが生まれるのだが……ギーラスが口にした一言で、幾分かの悔しさが吹き飛んだ。

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