四百四十三話 何故狙う?

「風属性のドラゴン、ですか」


「あぁ、そうだ。あれはどう見てもドラゴンだった……クソッ、俺の体が全盛期だったとしても……」


村には元冒険者の住人がいたが、風属性のドラゴンとなれば、最低でもBランク。

過去に戦闘職に就いていたからといって、容易にどうにかできる相手ではない。


(……にしては、おかしいな)


村人たちが嘘を言っているとは思わない。

寧ろ、己やスティームが感じた寒気から、納得出来る強敵。


しかし……いくつか解らない部分がある。


「なぁ、スティーム……ドラゴンってさ、こういう村とか狙ったりするか?」


「普通は狙わない、ね」


村に財宝好きのドラゴンが狙う様な物はない。


「ワイバーンとかなら手あたり次第襲うかもしれないけど、ドラゴンってなると……パッと理由が思い付かないね」


そして二人とも口には出さないが、最低Bランク以上のドラゴンが村を襲った場合、誰も死んでいないというのはおかしい。


重傷者こそいたが、全てアラッドの魔法や持っていたポーションで回復可能な範囲。


(……本当に何が狙いなんだ? そりゃドラゴンだからって、全員がオーアルドラゴンみたいに威厳と誇りがある奴らばかりじゃないとは思うが……ダメだ、読めねぇ)


いくら考えても突如襲来したドラゴンの気配が読めないため、二人は一先ず破壊された家などの整理を手伝った。


「若い後輩たち。すまないが、今村にはこれだけの金しかない」


「……いや、お金は要らないですよ」


「はっ!?」


元冒険者である住人が、村から出せる最大限の金が入った袋を渡すが、アラッドを受け取り拒否。


「し、しかし俺たちを助けるために、多くのポーションを使っただろ」


「そうですね。でも、お礼のお金が欲しくて使った訳じゃないんで」


自作のポーションということもあり、アラッドは再度お金は必要ないと、村の復興に使ってくれと伝え、スティームと一緒にダッシュでラダスへと戻る。


(特に見栄を張った様子でもなかった……あれが、若い頃に目指していた本当に英雄の姿、か……)


元冒険者は去っていた二人の後ろ姿に勇気を貰い、村の復興に全力を尽くした。



「アラッド、本当に使ったポーションの代金は貰わなくて良かったのかい」


「あぁ、別に要らない。金に困ってる訳じゃないからな」


(カッコイイ……カッコイイんだけど、ルーキーたちの前で言えばブチ切れるだろうな)


常に金が必要なルーキー。

ルーキーではなくとも、上を目指す者たちはどれだけ立場が上がっても金が必要。


今アラッドが口にした言葉は、そんな者たち全員に喧嘩を売る発言だった。


「しっかし、こう言うのもあれだが、なんであんな村を風属性のドラゴンが襲ったんだろうな」


「そうだね。本当に理由が見えない……ただ、ある程度知性がある……人の言葉を喋れるレベル程度には、考える頭を持ってそうだね」


「……その可能性は高そうだな」


ラダスに到着後、二人は既に今回の件を冒険者ギルドと騎士団に報告。


「ここ最近、そういう事件が増えてきてるんだ」


勤務終了後、ギーラスはアラッドと夕食に誘い、今回の一件に関わるであろう情報を伝えた。


「ということは、同じ風属性のドラゴンが村を狙ってるんですね」


「そうだね。いくらなんでも最低Bランクのドラゴンが何体も出てこられたら……意外とアラッドなら対処出来るかい?」


「俺というより、クロに本気を出してもらう必要がありますね」


まだ冒険中に一度も使っていないスキルがあるため、出来ないとは言わなかった。


(正直、Bランククラスならまだしも、Aランクが複数いるってなると……本当に厳しいな)


ドラゴンゾンビとの戦闘でレベルアップを果たし、以前と比べて身体能力が更に向上。

それでも、Aランクモンスターを相手に今度も絶対に勝てるという楽観視はない。


「そうだね…………ただ、本当に理由が解らないね」


「ですよね。最低Bランクと解っている以上、まだ襲われていない村へ冒険者や騎士を派遣しても……」


殺されるだけで、無駄死に終わる。

兄の前で口には出せないが、ギーラスもアラッドの考えは理解しており、その通りだと思っている。


(騎士団として、その件だけに人員を割くわけにはいかないが……それでも、今一番に解決すべき問題は風竜、だね)


全く確証はない。

何一つとして確証も証拠も理由もないが……何故か、自分が無関係だとは思えない。


「アラッド。すまないが騎士団からの依頼を受けてくれないか」


「勿論、受けますよ」


パーティーメンバーであるスティームに相談する必要があるが、スティームの方も兄であるディックスから頼まれていたため、二人は翌日笑いながら指名依頼を承諾。


二人の仕事は、主にラダス周辺の村に先日の風竜が接近してないかを警戒する為の巡回。


「実は……」


「そ、それは……本当、ですか」


そして巡回を始めてから数日後、村人たちから伝えられた情報に、アラッドは小さくない衝撃を受ける。


(なるほどな……だから、ラダス周辺の村を襲ってたのか……早くギーラス兄さんに報告しないと)

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