四百四十二話 まだ見せてないよね
「おっ、懐かしい敵だな」
パーティーを組んだ翌日、二人は特に依頼を受けることなくラダス周辺の森を歩き回っていた。
そしてCランクモンスターであるフォレストゴーレムの討伐後、アラッドにとって懐かしいモンスターが現れた。
(眼は特別赤くない……やっぱり、あの時遭遇した個体は異常だったんだな)
現れたモンスターの名は、レッドビートル。
アラッドがレイたちと一緒に狩りを行った際に遭遇したモンスター。
「今回は僕がやるよ」
「オッケー、任せた」
「よし……ファル、危なくなったらサポート頼むよ」
「クァ!!!」
一瞬で呼吸を整え、レッドビートルが動き出すよりも先に駆け出す。
(できれば、ファルの力を借りずに倒したいところ、だね!!!!)
以前までであれば、Cランクのモンスターと対峙した場合、ストームファルコンのファルと一緒に倒していた。
それは悪いことでも、卑怯な方法でもない。
従魔を連れている冒険者が、一緒に従魔と戦って倒す……どこにも卑怯な部分はない。
ただ、当然の如く、ストームファルコンの様な強い従魔を連れているスティームに嫉妬する冒険者は多い。
故にその悪い訳ではなく、卑怯でもない狩猟方法を陰でぐちぐちと呟く。
今まではそれらを無視し、自分のペースで着々と実績を積み上げてきた。
しかし……運命が良い方向に重なり合い、アラッドという青年と臨時とはいえ、パーティーを組むことになった。
アラッドからの誘いは非常に嬉しく、結果としてスティームはその誘いを快諾。
だが……今回の一件で、更に自分へそういった感情や嫉妬、いちゃもんが増えることは目に見えていた。
(恐れるな、前に踏み出せ! 自分の力で、斬り潰せッ!!!!!)
普段は温厚なスティームだが、奥底には確かな闘志が存在する。
(……うん、良い無茶だな)
ただ堅実に攻撃を躱し受け流し、隙があれば攻めるのではない。
自ら率先して前に出て、攻撃をぶちかます。
相手が先手を繰り出したとしても、敢えて一歩前に出ることで予想外のタイミングからカウンターを叩きこむ。
(良い動きだ。この分だと、ファルの援護は必要なさそうだな)
アラッドの予想は現実となり、ファルが一度も援護をすることなく、雷刀がレッドビートルを見事斬り裂いた。
「お見事。良い戦いだったな」
「ふぅ、そうかな? 結構危ない場面があったと思うんだけど」
「それを承知で踏み込んで、積極的に攻撃したんだろ? なら、良い結果ってことじゃないか」
「はは、バレてたか……そういえば、さっきレッドビートルと遭遇した時に懐かしい敵って言ってたけど、いつ遭遇したんだい」
納刀してから解体の準備を始める。
ただ……ただの会話として振った話なのだが、数秒後にスティームはやや後悔した。
「あれは……確か、七歳の頃だったか?」
「な、七歳ッ!!!??? ……えっと、冗談ではない……よね。うん、そうだよね」
こういった事でアラッドは冗談を言わない。
それを理解していたため、即座に自己完結。
「色々と使ってなんとか倒せたってところだ」
「ふふ、それでも流石と言うか、凄いの一言だよ」
「ありがとよ。でも……本気を出さずに、縛りありでレッドビートルを倒したスティームだって凄げぇよ」
「……アラッドは、もしかして仙人かな?」
アラッドという転生者をその様な存在だと疑う者もいるが、決してアラッドは仙人などという悟りを開いた、多くの意味で次元が違う人物などではない。
「そんな崇高な存在じゃねぇっての。この前模擬戦をした時、お前が本当の本気になった時に直感だけど、まだ強くなれる何かを隠してるなって思ったんだよ」
「気配だけで解ってしまうなんて、やっぱり仙人とかそういう類の人種に思えてしまうよ」
「まだ何の悟りも開いてねぇっての」
笑いながら従魔二体に見張りを任せ、せっせと解体を行う。
そして丁度解体が終了したタイミングで……背筋が凍る何かを感じた。
アラッドとスティームだけではなく、彼らの相棒であるクロとファルも同じ何かを感じ取った。
「アラッド、今のは……」
「あぁ、そうだな。とりあえず、良い気配じゃないってのは確かだ」
二人は目を合わせ、自身の従魔へと飛び乗る。
「ワゥッ!!!」
「グルルルッ!!!!」
主人たちの考えを即座に把握し、直ぐに何かが放たれた方向へと向かう。
「ッ、これは……クソ、何があったんだ」
二人が現場に辿り着いたころには、何かを放ったであろう存在は消えていた。
しかし、現場となった村では暴風でも通り過ぎたのかと思うほど荒されていた。
「大丈夫ですか!!」
アラッドは亜空間の中に入っていたポーションをスティームにも渡し、怪我を負っている者たちへ渡していく。
「こっちに来てください」
そして怪我人にポーションを渡しながらも、あまり得意ではない回復魔法を使用しながら回復を平行。
幸いにも村人たちの中に重傷者はいても、死者はいなかった。
ただ、二人が駆け付けたタイミング早かっただけで、仮に二人が気付かなければ死人となっていた村人もいた。
多くの村人に感謝される中、二人は一先ず感謝の言葉を受け取り、直ぐにここで何があったのかを尋ねた。
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