四百二十九話 覆す一手はあるか?

激しさが増すも、戦況は拮抗状態。


スティームはそれを破るために、雷の魔法を発動。

自身が扱う双剣にも纏い、一気に戦況を変えようとする……が、アラッドはその手を読んでいた。


(っ!!?? いくら、なんでもおかしいんじゃないか!!!)


中間距離からの遠距離攻撃に加え、斬撃に雷を加えた追加攻撃。

雷という特性もあり、その戦力増加の幅は侮れない。


しかし、互いにエキサイトし過ぎないという縛りの中、アラッドは次にスティームが仕掛けてくる内容が、属性魔力の付与ということを読み……瞬時に対応。

魔眼でステータスを視てはいなかったので、雷魔法が飛んでくるとまでは予想出来ていなかったが、それでも雷魔法を使えるのはアラッドも同じ。


「おいおい、二人ともまだ二十を越えてないんだろ?」


「らしいな。本当に末恐ろしいって奴だな」


「接近戦メインなのに、攻撃魔法を放つまでの速さも中々だ」


「魔剣士スタイルとか、失敗すれば結構中途半端になりがちだけど、二人には全くその気配がないな」


観戦している騎士たちは、二人の戦いぶりを素直に賞賛する。


今年騎士になったばかりの者たちなどは、やや嫉妬心の方が大きいが……それでもギーラスたちが良い教育をしているため、悪い方向に考えが発展することはない。


(でも……多分、勝つのはギーラスの弟の方だろうな)


口では若い両者を褒めているが、直ぐ傍に二人の兄がいるため、あまりどちらかの肩をよいしょする発言をする者はいなかった。


(はぁ、はぁ、はぁ……こいつ、いつまでも見下ろしてるんじゃねぇぞぉおおおおおっ!!!!)


優顔イケメンの表情に必死さだけではなく、激情が追加。


他者を震え上がらせる闘気の発散に、対戦相手であるアラッドの口端が吊り上がる。


(ははっ!! 良い顔するじゃないか!!!!)


呼応するように体から発する闘気が膨れ上がり、模擬戦は更に激化。


審判である副団長は模擬戦を中止にするか否かを迷ったが……まだギリギリ大丈夫だと判断し、止めなかった。


(力、スピード、判断力に持久力。どれも良し! これはこれで楽しいな!!)


先日何度も交わり合った元Bランク冒険者、マジットより上ではない。

しかし、模擬戦とはいえ……互いに勝利を求めあうバトル。


それはマジットとの戦闘では得られない昂り。

その高揚感を全力で楽しむアラッド……だが、同時に懸念感を持ち始めた。


これ以上は、おそらく予定していた域を越えてしまうと。


「ッ!!??」


クロスガードするスティームを力任せに剛剣で押し飛ばし、大きく距離を取る。


「っ! それは、どういう意味かな」


左手を前方に出し、ストップのジェスチャーを送る。


「いや、ここらで止めた方が良いかなと思って」


「…………」


それは本気の僕に勝つ自信がないからか? といった挑発じみた質問が口から出ることはなかった。


ただ、だからといってここまで高まったボルテージを沈めることは容易ではない。


「互いに強いってのは解った。でも……このまま続ければ、万が一があると思わないか」


自分が手加減する立ち位置。

それが解かっているからこそ、糸は使っていない。

狂化を使おうなど、一ミリも考えていない。


しかし……途中から、確実にスティームの闘志に変化があった。

たとえ己が格上であったとしても、咄嗟の瞬間は理性ではなく、本能が反応する。


「うむ、俺もアラッド君の考えに賛同する」


「っ!」


審判を務めていた副団長の同意により、スティームの表情が更に歪む。


とはいえ、審判である人物に止められては、これ以上続けようとするのは完全に自分の我儘であるのは解っている。


「ただ、敢えて勝者を宣言するのであれば、アラッド君だ」


当然と言えば……当然の反応がスティームの表情に現れる。


その反応を予想していた副団長は、予め用意していた言葉を伝えた。


「スティーム君、俺の答えに反論があるなら、今ここで覆せるだけの一手を見せてほしい」


「ッ!!!! ……そう、ですね。僕の、負けです」


アラッドは副団長が言葉を言い終えた瞬間に、自身の持つ状況を覆す一手……狂化を発動。


その圧はまだ落ち切っていなかったスティームのボルテージを、一瞬にしてゼロまで落とした。

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