四百二十四話 大器晩成

「しかし、俺にどんな用があるんだろうな」


ラダスに到着した翌日、早速騎士団の拠点地へと向かう。


歳不相応な雰囲気を持つ青年と……隣を歩く、明らかに普通ではないウルフ系の従魔。

そんな不思議な組み合わせへ視線が集まるのは、いつものこと。


二人もそれに関しては特に気にすることなく、兄が待つ場所へと向かう。


「訓練を行っている人たちの声が聞こえる。ここで間違いないな」


見えてきた騎士団の本部。


真正面から尋ねようとするアラッドに、警備担当の騎士二人の目が光る。

目の前の青年は明らかに騎士団へ用がある。

だが、本日騎士団には人族の青年とウルフ系の従魔が訪れるという報告はない。


そう……アラッドは確かに兄であるギーラスから来てほしいと頼まれた。

しかし、到着してから騎士団を訪れる為のアポは取っていなかった。


(たく、もしかしてどっかの貴族の令息か? 服装は冒険者っぽく見えるが……ん、待てよ……貴族の令息っぽい、冒険者?)


表情に僅かな焦りが浮かぶ。


貴族特有の雰囲気を持ちながらも、服装は冒険者に近い。

加えて、ウルフ系のモンスターを従魔として従えている。


本日のアポは確かにない。

ただ、同僚が近いうちに来ると言っていた人物と瓜二つ。


「君、名前を聞いても良いか」


「アラッド・パーシバルです。こっちは従魔のクロです」


「っ! そ、そうか。君があの……」


警戒心を上げ、威圧的な態度と取らなくて良かった。

騎士二人は心の底からそう思った。


「ここに来たということは、ギーラスの奴に相手に来た、ということかな」


「はい。手紙でギーラス兄さんに呼ばれたんで来ました」


「そうか。少し待っていてくれ」


一人がギーラスが本部にいるかを確認しに行き、もう一人は見張りを続けるため、その場に残る。


(これが、あの期待の英雄を倒した、ギーラスの弟か……戦意や殺気を解放してないにもかかわらず、良い雰囲気をしてるな)


現役騎士たちの中で注目を集めていた未来の騎士は、公爵家の令嬢であるフローレンス・カルロスト。

自身は王族でないにもかかわらず、女王の異名を関するのを許可された絶対強者。

二年生時に当時の三年生の最強を打ち破り、絶対王者として君臨。


その性格の良さと、光の反対を深く知ることが出来る高位貴族の出身ということもあり、上の者たちからの期待も強い。


一時は王子たちの婚約者候補に挙がっていたが、今はその候補からは王子たち本人の意思で外されていた。

理由は至極単純……あまりにも強過ぎたから。


一部の者たちからは性別関係無く、史上最強の騎士となれる器とも呼ばれている。

そんな絶対王者をギリギリ寸前とはいえ、打ち破った超新星。


決勝トーナメントが終わった直後は貴族界隈、騎士界隈が大きく揺れた。


「待たせた。訓練場にギーラスはいるようだ。案内するよ」


「ありがとうございます」


戻ってきた騎士の案内で、ギーラスが待つ訓練場へと向かう……筈だった。


「アラッド!!!!」


だが、弟がやって来たと知ったギーラスは訓練を中断し、逆にアラッドを迎えに向かった。


「久しぶりだな、アラッド! いやぁ~~、本当に強くなったな」


「ギーラス兄さんこそ、また一段と強くなったんじゃないですか?」


「おっ、そうか? お前にそう言われると自信が付くよ」


決してお世辞ではない。

ギーラスは学生の頃は「まぁ、流石パーシブル家の息子だよな」といった程度の評価しか受けていなかった。


アラッドの様に頂点に立つことはなく、無事に卒業して騎士団に入団。

そこからが本番と言わんばかり、着実に……止まることなく実力を上ていく。


(ギーラス兄さんは父さんと違って、やっぱり大器晩成タイプみたいだな)


なにはともあれ、まずは久しぶりの再会を喜び合う二人。

そして訓練から上がったギーラスとのティーターム中に、何用で自分をラダスに呼んだのかを尋ねた。

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