四百十二話 何が何でも潰す

「こいつら、急に!?」


「迂闊に攻撃するな!! まずは攻撃を躱せ! もしくは防御に徹しろ!!!!」


ゾンビたちの急激なパワーアップに驚くも、そこは経験豊富な戦闘者たち。

どういった動きを最優先すべきが解っているため……アラッドとしては、非常に動きやすかった。


「いくぞ、渦雷」


鋼鉄の剛剣・改を納刀し、切り札……進化する魔剣、渦雷を抜刀。


多数の強化スキルや狂化の発動に加え、更に身体能力を向上。

加えて……渦雷の効果を発動し、任意で発動をオフにするまで、持続的に限界が来るまで加速が続く。


多少知能があるゾンビたちだが、戦場でいきなり特定の人物だけを狙う……そんな優れた判断は行えず、主人である黒幕の男が指示を出さなければ、アラッドだけに集中することはない。


ただ、仮にアラッドだけに集中した場合、当然の様に他の戦闘者たちがその背中に獲物をぶち込む。


「す、すげぇ……強化されたゾンビどもを、あんなにあっさり」


「学生最強は伊達じゃねってことか」


「ったく、あたしたちも負けてらんないね!!!!」


突然の強化に対し、悔しくも大なり小なり恐怖を感じたが、そう簡単に闘争心が折れることはない。


実力的にゾンビたちが戦闘者たちを圧倒している訳ではない。


「おらっ!!!!!!」


アラッドが超速で移動し、ゾンビが全く動けない様に細切れにしていることもあり、数の有利は討伐隊に傾きつつある。


「活きの良いルーキーが良い仕事してるんだ、俺たちが成果出さねぇでどうする!!!!!」


「そりゃそうだ、な!!!!!!」


「ゾンビが、強化されようが、なんぼのもんだ!!!!!!」


黒幕の男を守る様に戦うゾンビの中には、彼ら彼女たちの知人……友人もいる。


ゾンビとは言えない程綺麗に復元された彼らは、時折寂しげな表情を浮かべる。

まだ魂が成仏してないのか……それとも男の策略で細工されているのかは分からない。

ただ、戦闘者たちの湧き上がる感情は一致していた。



何が何でも、あの屑をぶっ潰す!!!!!



その共通闘志が共鳴し、コンビネーションが加速。

今までも初対面とは思えないコンビネーションで他とは一味違うゾンビや、後方から援護射撃を行う黒幕男の弾幕に対応していた。


しかし、ここにきて連携度が上がったことで、男の無情なパワーアップで強化されたゾンビたちの猛撃防ぎ、躱して反撃。


(いける!! 多分だが、コンビネーションが、さっきまでと比べて良くなってる! 理由は、本当に解からんが、良くなってる!!!!)


アラッドだけではなく、後方で暴れ回る戦闘者たちやクロのお陰もあり、戦況はどう見てもアラッドたちに傾いている。


残念ながら負傷者、死者がゼロとはいかないが、それでも元々冒険者ギルドが予想していた被害と比べれば雲泥の差。


そして黒幕の男に取っても、これは予想外過ぎる途中経過。

自身のアジトがいずれバレて攻められるかもしれないと予想はしていた。


しかし、その時の為の戦力は着実に揃えてきていた。

事実として、今回の討伐隊に参加したメンバーでは……アラッドとクロがいなければ、黒幕の男を討伐出来る可能性は、限りなく低い。


それでも今回は重用戦力の一人と一体が参加した。

男がどれだけ呟こうが怨嗟を吐き出そうが……王手を掛けられている事実は変わらない。


「まだだぁあああああああっ!!!」


だが、戦場では何がどう転ぶか分からない。


このままいけば勝てるという気の緩みは小さな毒となり、討伐隊を蝕むことになる。


(あの野郎! なんてマジックアイテムを持ってるんだ!!!)


黒幕の男はマジックポーションをがぶ飲みし、一つの魔法陣が書かれた洋紙を千切った。


それが合図となり、洋紙に書かれていた魔法陣が宙に浮かび、一体のモンスターが召喚された。

そのモンスターは……腐っていようとも、確かな存在感を放つ厄災、ドラゴンゾンビ。


今、再び戦場のシーソーが大きく揺らいだ。

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