三百九十八話 金額の問題ではない
(……? なんか、ピリピリしてるな)
ギルド内の空気に疑問を持ちながらも、アラッドは受付嬢の元へ向かい、依頼達成の報告と納品を行う。
「こちらが報酬金額になります」
「ありがとうございます……あの、なんで今日は空気が重苦しいんですか」
「っ!」
冒険者の中で気軽に話せる者がいないため、ギルド職員である受付嬢に、ストレートで要因を尋ねた。
すると、手が空いている他の受付嬢に手招きされ、軽く事情を説明を受ける。
「……という事なんですよ」
「そんな事があったんですね……それは、重苦しくなってしまいますね」
アラッドが向ける視線の先には……ピリピリした空気を生み出している張本人であるマジットが、ピリピリしながらも真面目に仕事を行っていた。
(そりゃマジットさんがキレても仕方ないよな)
先日、アラッドにリンチ(仮)を行った者たちの詳細がバレた、という訳ではない。
まだ黒幕の手掛かりが見つからない墓荒しの被害に……マジットの戦友だった者がやられた。
(引退しても、まだまだ現役と変わらない戦闘力を持ってる。もしかして、今回の件が解決するまで最前線に復帰する、のか?)
全くあり得ない話ではない。
敵の戦力が明確に解からない以上、冒険者ギルドとしても役に立つ戦力を職員だからといって、外に出さないという理由はない。
とはいえ、マジットはバリバリ受付嬢たちのリーダー的な存在として働いており、業務時間内であればルーキーたちに戦闘指導を行うこともある。
ギルド職員の労働力として、マジットは非常に欠かせない存在。
(マジットさんが直接黒幕をぶっ潰したいと思ってるなら……一人で潰すって考えは完全に捨てた方が良いかもな)
アラッドにとって色々と気になる人であるため、その意思を尊重したいという思いはある。
(あっ、でもそれはそれで…………駄目だ、これ以上考えても仕方ない)
一人で考えても無駄だと思い、今日も一人で夕食を食べに向かった。
―――――――――――――――――――
「な、なにぃいいいい!!!??? そ、それは本当なのか!!??」
「は、はい。ギルドから返事か返ってきました」
アラッドに臨時教師の指名依頼を出した学園長は、返ってきた返事に大きな声を出し、机の書類が地面に落ちるのも気にせず、盛大に驚いていた。
「な、何故だ!!??」
「その、教師というのは、あまり自分の柄ではないそうです」
報告に訪れた教師は、ギルドの方から伝えられた断り理由を学園長に伝えた。
胃が痛いが、お断り理由を伝えないという選択肢はない。
「そ、そういった部分は殆ど求めていない! その点は伝えてないのか!?」
「一応伝えていますが、それでも断られたようです」
「……何故だ?」
学園長の頭から疑問が離れない。
学園長がアラッドへの指名依頼に使うはずだった金額は、白金貨にこそ届かないが、金貨何十枚といった大金を使うはずだった。
(金額に不満? 拘束期間の短さを考えれば、破格の金額のはず……)
破格の金額という考えは間違っておらず、学園長は他の冒険者に依頼する金額よりも高い額を提示した。
他の冒険者が知れば激怒するかもしれない。
少なくともプライドがある者が知れば、怒りを抱くのが普通。
そんな同業者が羨む内容の依頼を、アラッドはあっさりと断った。
(是非とも、生徒たちにあの強さを刻み、一つの目標としてほしいのだが……くっ、やはり金額を上げるのがしかないか)
副学園長に業務を任せ、王都の学生による大会を観に行き……当然、決勝戦を観た。
その当時まで学生最強と、女王と呼ばれていたフローレンス・カルロストを倒し、一年生にして学生の頂点に上り詰めた。
観客席から観たアラッドの強さを、どうしても生徒たちに伝えたいという思いが芽生え……運良く一年もしない内にチャンスが回ってきた。
ただ……結果として、主に二つの理由でその思いが叶うことはなかった。
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