三百九十七話 わざわざ行く理由がない

「な、なんでですか!!??」


受付嬢が驚くのは、ギルド職員としては当然の反応。


周囲で聞き耳を手ていた冒険者たちも、当然驚きを隠せなかった。


「いや、その……あんまり、臨時教師とか柄じゃないんで」


先日同業者以外にも、学園の生徒にも絡まれたという事実は口にせず、適当な理由で断ろうとする。


「あの、冒険者の方々に臨時教師として求めるのは、基本的に戦闘力の高さです。その点、アラッドさんは基本水準を大きく上回っています」


受付嬢の言葉に、周囲の冒険者たちは悔しいともいながらも、同意。


Bランクモンスターの暴牛、ミノタウロスを一人で倒した怪物。

マジリストンを拠点とする冒険者の中には、クロという巨狼の力を借りて倒した!! 実力詐欺だ!! と口にする者もいるが、従魔も主人の実力であることに変わりはない。


結局はアラッドが有する戦力でBランクモンスターを倒せる事実は変わりないため、ギルドの評価は他の冒険者たちよりも高い。


「それに、こんな事言うのはあれかもしれませんが、それなりに報酬金額は高いですよ?」


「えっと、この前ミノタウロスの素材を売って、そこそこの大金が入ったので、その辺りはあまり困ってないです」


「うっ! そ、そうでしたね」


ミノタウロスの回復力が高かったため、途中まで与えていた斬撃による傷は癒えており、毛皮の値段が下落することはなく、骨なども同様の理由で通常通りの値段で買い取られた。


加えて、用意が良いアラッドは血の回収も万全。

三分の一ほどは自身の制作の為に取っているが、三分の二もあれば悪くない金額が懐に入ってくる。


(ど、どうしてここまで頑なに断るんでしょうか?)


先日の一件を知らない受付嬢は、先日大金が入ったからといって、割の良い指名依頼を断るアラッドの考えが、理解不能だった。


冒険者にとって、金があり過ぎて困ることはなく、指名依頼は自身の評価を上げるチャンス。

誰かに何かを教える系の依頼は危険度が他の依頼と比べて低いため、冒険者の間ではそこそこ人気。


それだけ冒険者たちが受ける割合が高い依頼を、アラッドはあれよこれよ理由を付け、断る。


「……ですが、こちらの学園の学園長は是非ともアラッドさんに受けてほしいとのことで……って、やっぱりダメですよね」


「すいません。さっきも言った通り、あまり臨時とはいえ教師というのは柄じゃないんで」


「そ、そうですか」


ランクがC……B以上にもなれば、指名依頼はそう簡単に断れない。


依頼者側としても、高ランク冒険者に指名依頼を出すのは楽ではないが、冒険者側にも多少の縛りはある。


しかし、現在アラッドのランクは、まだD。

実力は既に上位に踏み込んでいるとはいえ、ランク的にはまだぎりぎりケツに殻が付いているひよこ。


ランクがまだ高くないこともあり、指名依頼の強制力は高くない。


(その学園長さんはちゃんと俺の実力を評価してくれているだろうけど、学園の生徒たちは……あの二人の様に、俺のことを嫌ってるだろうからな)


わざわざ居心地が悪いと解ってる場所に行きたくない。


それは冒険者など関係無しに、人であれば当然の考えだった。

学園側がヒヒイロカネなどの、超が五つほど付く珍しい鉱石などを用意していれば話は別だが、学園側もそこまで一人の臨時教師に対して、金を使える余裕はない。


(マジットさんが悪い訳じゃない。それに彼らも……ちょっと特別扱いされてるであろう、俺が気に入らない。それは至極当然の感情だ)


マジットを尊敬、羨望する者たちが悪いとは思わない。

闇討ち、明確なリンチをしてこないあたり、職業が冒険者というだけのゴロツキ共よりはまとも。


ただ、それでも嫌なことは嫌であるため、本日も適当な依頼を受けながら黒幕の捜索を行う。

そして虚しくも成果はゼロ。


少し気落ちしながらギルドへ戻る、中では謎の緊張感が充満していた。

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