三百八十二話 あれは何時だったか

「あれは……懐かしいな。暴走状態、か」


三人の冒険者と戦うオーガの目は赤く、体の脈が浮き出ている。


(確か、あの時襲い掛かってきたモンスターはレッドビートルだったか。同じCランクのモンスターではあるが……暴れっぷりなら、こっちの方が派手だな)


通常状態であっても、オーガやその上位種は上品な戦い方などせず、派手に暴れることを好む。


(ん? 普通のオーガじゃなく、オーガファイターだったか。それなら、腕力だけは確実にBランクの域に達しているな)


ナイト、ウォーリアー、ファイターなどの上位種は、通常種と同じランク帯ではある。

それでも身体能力や技術力に差はあるため、そこに暴走という異常状態が加われば、五体を使った戦闘を得意とするファイターの腕力は確実にCランクの域を突破。


(さて、ここは助けに入るべきか否か……まっ、さすがに無理だろうな)


自分より先輩なのは間違いない。

しかし、同じルーキーであることが動きや装備の質から解る。


(少なくとも、ベテランの域には達していない)


連携、ここの実力も悪くないが故に、オーガファイターに多少のダメージは与えていた。

だが……今回ばかりは、その攻撃はオーガファイターの怒りのボルテージを更に上げる材料にしかならない。


「クロ、あの三人の護衛を頼む」


「ワフ!」


前回、黒いケルピーとの戦闘を楽しんだクロはあっさりと頷き、アラッドの指示に従った。


「きゃっ!!??」


地面を抉る蹴りから繰り出された礫に、後衛の魔法使いが尻もちをつく。


「ガァァアアアアアアアッ!!!!」


後ろからの攻撃を鬱陶しく思っていたオーガファイターは、前衛と中衛の男女を無視し、全力で魔法使いを殺しに掛かった。


「おらっ!!!!!」


目の前の三人を潰すことだけに集中していたこともあり、隠れていた一人と一体の気配に気付かず、重さが乗った良い一撃を食らい、逆に尻もちをついた。


(割と良い一撃を叩きこんだつもりだが、心臓までは届かなかったか)


腕力だけではなく、耐久力も以前戦った刺青大量オークシャーマンに匹敵する。


それを瞬時に把握したアラッドは鋼鉄の剛剣・改を抜き、風の魔力を纏った。


「ふんっ!!!」


「ガッ!!!!??? グゥォオオオァッ!?」


風の斬撃を一太刀放ち、腕の切断には失敗するものの、少なくない量の血が流れだす。


とはいえ、アドレナリンドバドバ状態で、色々とキマっているオーガファイターはその一太刀で止まり、恐れることはない。


渾身の剛拳をアラッドに叩きこもうと動くが、そんな考え無しの行動は……アラッドからすれば、格好の的。


足元に糸を設置すれば、呆気なく転んでしまう。


「来世は、もう少し足元に気を付けて生きろよ」


「ギッ、ガ、ァ……」


細かい部分に注意がいかない状態とはいえ、馬力は半端ない。

中途半端な糸では転ばせる前に引き千切られるため、太さと本数を増やしていた。


そのため、先程までオーガファイターと戦ってい冒険者たちには、薄っすらとだがその糸が見えていた。


「ッ!! ワゥ!!!!!」


暴走状態のオーガファイターに止めを刺し、絶命させた直後、クロが突然吠えた。


「どうした、クロ」


主人に突然吠えた理由を尋ねられ、身振り手振りで答えるクロ。


「……何となく分かった。もしかしたら、今回の一件に関係している輩かもな」


何はともあれ、まずは現状の問題を片付けなければならない。


「さて、いきなり戦いに割って入って悪かった。ただ、お前たちだけでは分が悪いと思ってな」


「………………いや、助かった」


感謝の言葉が出てくるまで短くない間があったが、リーダーである男はアラッドに向かって軽く頭を下げた。


「そうね、私たちだけじゃちょっと厳しかったわね」


「悔しいけど、その通りね」


冒険者にとって、負けず嫌いという重要な要素を持っているものの、先程までの戦況を冷静に振り返られない程、三人とも愚かではなかった。

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