三百八十話 頼れる姉御

「買い取りをお願いします」


「は、はい!!」


捜査を終えて戻ってきたアラッド。


何も手掛かりは得られなかった。

ただ、道中でモンスターに襲われ、流れとして討伐してしまい、いつも通り解体を行った。


DランクやCランクと幅はあるが、どれもオークシャーマンの様な特別な個体ではなく、素材などを保持する価値はないため、殆どを売却。


カウンターには到底一人で狩ったとは思えない量の素材が置かれた。


(ま、マジットさんが言ってた通り、とんでもない人ですね)


アラッド・パーシブルという人間については、冒険者ギルド間でも情報伝達が行われていた。

あっという間にDランクに昇格し、Bランク相当の実力があると思われるオークシャーマンをソロで討伐。


手に入り辛い素材の中でもトップクラスの素材、ユニコーンの角を手に入れた。

加えて、その戦いの中で従魔であるクロが、特殊なBランクのケルピーをソロで討伐。


現在の功績が考えるに、Bランクモンスターをソロで討伐出来る戦力が二つあるパーティー。


とはいえ、それは情報の中だけの話。

ゴルドスで滞在していた冒険者たちであれば、アラッドのことが気に喰わないルーキーたちであっても、それらの情報通りの実力があると認めていた。


(コボルト上位種の牙や爪に毛皮、ダッシュボアに毛皮に肉、骨。それにグレートウルフの牙や爪まで……本当に

、情報通りの実力者なのね)


マジットから真剣な表情で情報を伝えられていなければ、受付嬢は目の前の光景を冷静に受け止められなかった……かもしれない。


何はともあれ、買取はマジットのお陰もあり、順調に進んでいく。


(……どのギルドでも、美人は本当にモテるんだな)


ゴルドスではエリアス。

マジリストンではマジットという美人と関りを持った。


マジットは関りを持ったというにはまだ知り合い、会話をしてから日数が経っていない。

という事情は、マジリストンを拠点とする冒険者たちには関係無かった。


貴族の令嬢にも負けない……というより、貴族の令嬢たちでは持ちえない美しさ、気丈さを持ち、スタイルも良し。

加えて冒険者時代、ギルド職員となった今でも冒険者……特にルーキーたちを気に掛ける、見た目を裏切る優しさを持つ。


勿論、無頼漢に対しては容赦ない鉄拳制裁を叩きこむ、気の強さも持ち合わせている。


引退時のランクはB。

この時点で冒険者としてはトップクラスの位置に立っていたが、同僚たちの間ではAランク昇格は確実と言われていた。


事情があり、冒険者を引退してギルド職員となったが、その実力は今でも健在。

休日には後輩たちの指導に当たるか、戦闘の勘を鈍らせない様に街を出て、モンスターを一人で狩っている。


そんな受付嬢たちや、現冒険者たちにとって尊敬の対象であり、非常に頼れる姉御、それがマジット。


「なぁ、どうやって……」


「でもよ、乗ってくるか?」


「こうすれば……」


「確か、貴族なんだろ。それなら……」


受付嬢たちに関しては、そもそも侯爵家の三男という立場を持ち合わせており、見た目も体も将来性まで三拍子揃った優良物件。


嫉妬する要因はなく、嫌うなんてあり得ない存在。


しかし、冒険者である彼ら……彼女たちも含めて、そういった事情は一切関係無い。


(全部は聞こえないが、何やら面倒なことを考えてそうだな。喧嘩を売ってこない状況が続くのであれば、下手にこちらから刺激する必要はないか)


自分という存在に、同業者が敵意や嫉妬という感情を向けてくることには、不快ではあるが慣れた。

致し方ないという理解もある。


故に「ごちゃごちゃくっちゃべってないで!!! 文句があるなら直接言いに来い!!!!!!」などと、同僚たちに向かって怒号を飛ばすことはない……一応、今のところは。

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