三百四十六話 他者の責任ではない
「本当に済まなかった!!!」
現在、エリアスとアラッドはレストランの個室で対面していた。
「エリアスさんは何も悪くないんで、頭を上げてください」
アラッドより先に狩りへ向かったエリアスは、途中で出会った同業者たちから、今朝起こった一件について聞いた。
何故、若いルーキーがアラッドに決闘を挑んでしまったのか。
挑発の内容はさておき、同業者たちの考えに対し……エリアスも、自分のせいだ思ってしまった。
「しかし、私が何かしらの対応を取っていれば!」
今回アラッドの絡み、結果的に冒険者ギルドから永久追放となった少年が、自分に好意を抱いている自覚はある。
異性からそういった想いを向けられることは、エリアスにとって珍しいことじゃない。
だから、少年に対して「今は誰かとそういった関係を持つつもりはない。持つとしても、君じゃない」なんてことを言おうとしなかった。
「対応を取っていても、あいつの俺に対する態度は変わっていなかったと思いますよ。社交界を経験してきた令息ではない……あまりそういうのに興味がなかった俺が言うことじゃないですけどね」
自身の本音を隠し、仮面を付けるなんて器用な真似はできない。
時期的には自分より後輩のくせに、いきなり上のランクからスタート。
何も苦労することなく日々を過ごし、挙句の果てには自分が好意を抱いている先輩とデートをしていた。
エリアスが何かしらの対応を取っていたとしても……いや、逆に取っていれば、より少年の感情は爆発していたかもしれない。
「今はもう違いますけど、あいつは冒険者でした。という事は、親元を離れて自立してるんです。そうなれば、どんな行動を起こそうとも、基本的な原因は全て自分なんですから」
過去の教育が根強く心の底に残っている。
誰かに洗脳状態にされ、思考や人格が変わってしまった。
これらの特例はあるが、その特例などは少年に当てはまらない。
誰かに唆されたわけではなく、自分の意志でアラッドに喧嘩を売り、竜の尾を踏んだ。
完全に自業自得と言える。
「……君は、私よりも大人だな」
「別にそんなことはないですよ……一応、貴族の子供なんで、見る視点がちょっとズレてるんですよ」
「そういった視点で物事を考えられるからこそ、大人なんだよ」
「……どうも」
丁度良いタイミングで頼んだ料理が運ばれ、二人は一旦夕食タイムに移る。
「エリアスさんは、俺を酷いと思いますか」
なんとなく、アラッドは尋ねた。
自分が決闘の条件として提示し、結果実行された内容について、他人がどう思うのか……知りたくなった。
「いや、そんな事は思ってないよ。君の立場を考えれば、腕や足を斬り落とし、くっつけられない様に燃やしても文句は言われない」
エリアスの言葉通り、アラッドは冒険者としては異例と言える存在。
少年が挑んできた勝負内容も、決闘なのでそういった行動をとっても、特にルール違反ではない。
「そういうのを考えれば、君は優しいよ」
「ありがとうございます」
「……今の言葉は、決して君を励ますためのものじゃない。事実だよ」
冒険者として成り上がることを目標を持ち、冒険者になり始めてから数年……その職を剥奪され、永久追放という流れは、そこだけ聞くと同情されるかもしれない。
しかし、エリアスも冷静に物事を判断できる頭を持っている。
スキルを馬鹿にされた、家族を馬鹿にされた……そんな事、自分より下の人間に言われたのだから、聞き逃せば良いじゃないか。
そんな愚かな考えは浮かばない、浮かんでも口に出せない。
「あいつの立場を考えたとしても……そもそも、君に馬鹿な絡み方をするのがおかしい」
顔見知りの後輩。
エリアスにとって、少年の印象はその程度だったが、今ではただただ考える頭を持たない、愚かな子供。
本人に伝えるつもりはないが、その印象はこれからも変わることはない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます