三百四十五話 それはそれで痛い
「ワゥ~~」
「なんだ、心配してくれてるのか? ありがとな」
柔らかな毛並みを押し当て、主人を心配するクロ。
何故、主人の表情に怒りが現れていたのか。
その件に関して、クロはアラッドから言われずとも理解していた。
若いルーキーの声は大きく、当たり前の様にギルドの外まで聞こえていた。
クロは人の言葉が解かる為、若いルーキーがどんな内容を口に出してしまったのか……その結果、アラッドがどのような反応を取るかまで直ぐに把握。
アラッドは基本的に優しい。
しかし、逆鱗を踏み抜かれても優しさを失わずにいられるほど、仏ではない。
「個人的には、どの世代とも仲良くしたんだけどな」
自分は、あまり同世代から好かれる様な存在ではない。
それは重々承知しているアラッド。
それでも同じ冒険者として、同世代とはある程度仲良くしたいという想いはあった。
喧嘩した後に仲良くなるというパターンがあるかもしれないが、今回は若いルーキーがやり過ぎてしまった。
クロという高い戦闘力を持つ従魔のお陰で強くなれた。
それぐらいの文句、挑発では特に怒らない。
それは、アラッドがそう思われても仕方ないと理解しているから。
若いルーキーはアラッドの寛大さに気付くことはなく、挑発などの常套句ではありつつ、仕方ないと納得、理解出来ない暴言を吐いてしまった。
(思いっきり殴って発散したいな)
溜まったストレスは、体を動かして発散するのが一番。
「おらっ!!!!」
「ブヒャっ!!!???」
ひとまず遭遇したオークを、強化系スキルなどを使わず、素の状態でぶん殴った。
Dランクモンスターで、一般的な個体と比べればレベルは高いが、怒りが籠ったストレスパンチを相殺、回避することは出来ず、呆気なく骨がバキバキに……内臓がぐちゃぐちゃに砕かれた。
「ふんっ!!!」
「っ!!??」
クロに一切ビビることなく突進してきたダッシュボアに、ジャストタイミングで側面から蹴りを食らわせ、華麗に蹴り飛ばす。
衝撃が脳までしっかり伝わり、そのままノックアウト。
「でりゃっ!!!!」
「ビャっ!!??」
大きな角を持つ鹿、アッパーディールは全力ダッシュからのかち上げで仕留めに掛かるが、アラッドはタイミングを見計らって軽くジャンプ。
そして角が振り上げられるのと同時に、角を二本とも掴み、ぐるっと一回転。
勢いをつけ、アッパーディールを顔面から地面に叩きつけた。
当然、こちらも脳がやられ、即死亡。
遭遇するモンスター、殆どを一撃で仕留め続ける。
勿論、倒し終われば解体。
いつも通り、夕方ごろになるまで狩りは続いた。
糸を耳から入れられ、脳を裂かれるという倒され方も嫌だろうが、ストレスを思いっきりぶつけられるのも、モンスターにとってはたまったものではない。
「買取、お願いします」
「か、畏まりました!!!!」
今朝の一件で、怒らせてはいけないという認識を持たれた人物の帰還。
加えて、カウンターには大量の素材。
おそらく……おそらくではあるが、怒りに身を任せてモンスターを倒した。
職員たちは体をブルっと震わせながらも、いつも通りの業務を続ける。
「あれって、アッパーディールの肉に角だよな」
「Cランクを一人と一体で……いや、アラッドだけで倒したのかもな」
「全然あり得そうだな」
「あんな怪物に喧嘩売ったてのを考えると、あいつ……ある意味すげぇよな」
「ある意味凄い、ねぇ……私たちにとっては笑い話だけど、あのルーキーにとっちゃ、笑い話じゃ済まないでしょうね」
「そりゃそうだろ。武勇伝にすらならねぇぜ」
今朝の件に関して話す者が多い中、アラッドに対する批判はない。
やり過ぎ?
そう思う者がいない訳ではないが、それはごく一部のルーキー。
同じルーキーでも、ゴブリンがドラゴンに喧嘩を売ってはいけないと自覚した者はそれなりにいた。
(……今日はやけ食いだな)
そう思いながらギルドを出た瞬間、見知った人物と遭遇した。
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