三百二十五話 依頼であれば受けますよ
(クソ、頼むから俺を放っておいてくれよ!!!)
なんて実際には口に出せるわけがなく、アラッドは多くの現役騎士や、その関係者に囲まれていた。
声を掛けられる内容は……殆ど、騎士団に入らないか? というもの。
アラッドにその気がないというのは、割と広まっている。
ただ……本人にその気がなかったとしても、声を掛けずにはいられない。
それだけの強さを試合で魅せたこともあり、騎士団のお偉いさんたちまで、とりあえず一言……うちの騎士団に来ないかと声を掛ける。
当然、アラッドは申し訳ないと、丁寧な態度で断りを入れる。
騎士たちの中にはその理由を尋ねる者がおり、考えていた定型文を何度も返す。
「贅沢な奴だな」
「僕だったら絶対に入りますって答えちゃうよ」
「生意気ね……強いのは認めるけど」
「そうだよね~。あれだけの強さを魅せられちゃったら、現役騎士たちがこぞって自分の団に勧誘するのも納得だよ」
パーティーに参加している学生たちにとっては、羨まし過ぎる状況。
大会が終わった後の勧誘ともなれば、ほぼ卒業後の内定が決まると言っても過言ではない。
大会は学生たちにとって、就活の場と同義。
そんな就活が終わった後、このパーティーで声を掛けられるのをドキドキしながら待つ学生が殆ど。
「ふっ、どうやらその意志はオリハルコンのように固いようだな」
「子供の頃から決めた、変わらぬ道ですから」
「そうか……しかし、依頼をすれば手を借りれるのだろう」
「えぇ、勿論ですよ。報酬が良ければ、是非とも受けさせてもらいます」
この言葉に、勧誘することばかり頭にあった騎士たちは、その手があったかと希望の光を得る。
そうしてアラッドを囲っていた現役騎士たちが、ようやく本日の主役を解放。
ようやく友人たちとのんびり過ごせる時間が訪れた。
「凄かったな。でも、気持ちは変わらないんだろ」
「あぁ、そうだな。勧誘してくれるのは嬉しいし、光栄なことだと思ってる」
それは紛れもない本音。
自分が今まで積み重ねてきた力が評価されるのは、本当に嬉しく思う。
「でも、あの現役騎士たちの言葉で揺らぐぐらいなら、父さんに提案された段階で道を変更してる」
「……はは! 確かにそうだな」
アラッドの言葉に、友人たちは「そりゃそうだ」と納得。
そんな中、個人戦やタッグ戦で活躍した友人たちも騎士たちに声を掛けられ、将来的にうちの団に来ないかと勧誘を受ける。
他の学生たちも声を掛けられていると……一人の学生が、アラッドの元へと訪れた。
その瞬間、学生だけではなく現役騎士たちもざわめき始めた。
「試合ぶり、ですね」
「どうも」
薄い青をメインにしたドレス姿のフローレンス。
その美しさに……惑わされることはなかったアラッド。
態度は試合中と変わらない。
「完敗でした。まだまだ足りない部分が多いと痛感しましたわ」
「謙虚も過ぎると嫌味に変わりますよ」
あと一歩のところまで追い詰められていたのは、アラッドも同じ。
「あなたは、試合中に成長……いや、あれは進化と言って差し支えないでしょう。あれが完璧な状態であれば、
結果は逆でした」
実力ではアラッドの方が、結果的に半歩上だった。
しかし、社交界での読み合いに関しては、何度もこういった場でおしゃべりしているフローレンスの方が数段上。
アラッドのポーカーフェイスがお粗末だったわけではないが、フローレンスには何かを隠しているのがバレていた。
ただ、そこで深く突っ込もうとしないのが淑女。
「そう言ってくれると嬉しいわ。ところで、本当に騎士にはならないのかしら」
「……あなたまで同じことを聞くんですね」
騎士たちと同じテンプレート文を返し、もうフローレンスとの会話は終わり……と思っていたが、女王はそんなアラッドの内心に構わず、会話を続けた。
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