三百十三話 何を考えている?

個人戦の準決勝が始まってから数分後、二人の激しい攻防戦は止まらない。


既に互いの武器の属性魔力を纏っており、度々攻撃魔法もぶっ放している。


(一緒に訓練してて思ったけど、攻撃魔法に対する対処が良いよな)


そのタイミングでの攻撃魔法は対処が厳しい。

そう思える攻撃であっても、レイは顔色一つ変えずに対応する。


これはヴェーラと模擬戦を中等部時代から繰り返した成果であり、ちょっとやそっとの揺さぶり攻撃が効くことはない。


(……このまま勝負が続くなら、長引きそうだな)


細剣を振るいながらも、攻撃魔法を放つ。

時には鋭い蹴りを叩きこむといった動きは、今までの試合にはない動き。


そして遠目からではあるが、フローレンスの表情に余裕がないことが解る。


「なぁ、今の勝率は五分五分ぐらいなんじゃねぇのか」


二人の試合内容を考えると、リオがそう思うのも無理はない。

マリアやルーフですら同じことを考えていた。


一見、そう見える戦いをしているかもしれないが……表情に余裕がないのは、レイも同じ。


既に大剣技や体技のスキル技も発動しているが、どれもクリーンヒットはしない。

余波などが当たることはあれど、大きなダメージには繋がらない。


フローレンスの斬撃や刺突もレイに掠りはすれど、身体能力を著しく下げる攻撃にはならない。


「……どうだろうな」


アラッドも、少しだけその考えが芽生えた。

後は根性の差で試合が決まるのではないかと。


今リング上で戦っているレイは、戦意を超えて殺気を放っている。

そこまで強い意志を持って戦わなければ、フローレンス・カルロストには勝てない。


ただ……フローレンスからはそこまでの迫力を感じない。


(レイ嬢の動きに慣れてきたから、って訳じゃない。試合が始まった時と同じく、真剣なのは変わらない……)


そう、倒すことに集中はしているが、レイの様にぶっ殺すつもりで戦ってる……というほど、荒々しい戦意は持っていない。


(もしかしたら、俺かジャン・セイバーと戦う時まで隠すつもりなのか?)


自分と同じく、その時が来るまで奥の手は晒さない。

そう思いながら戦っているのかもしれない。


仮にそうだとしても……同じ戦い方をしているアラッドは、とやかく言える立場ではない。


ただ、レイ相手にそれを命取りだと思った。


「はっ!!!!」


渾身の一撃を振り下ろすが、それを読んで躱すフローレンス。

レイも大剣を地面にぶっ刺すようなことはせず、ギリギリで止めて、横から飛んでくるフローレンスの連続突きを対処。


(欠片やホコリを全て吹き飛ばす風圧……あんな攻撃を放ってくる相手に、よくそんな真似が出来るな)


自己修復機能を持つリングだが、二人の攻防によって、ところどころ抉れている。

勿論、自己修復機能があるだけではなく、耐久面も優れているのだが、二人の斬撃や攻撃魔法が当たれば、砕けるのも仕方ない。


その影響で出てくるリングの欠片などを、レイの一撃は全て吹き飛ばす。

そして高威力の一撃は、その一撃に止まらない。


「かなり長い戦いになってきたね」


ベルの言う通り、既に試合が始まってから七分が経過している。


しかし、二人は一旦間を置くことはあれど、殆ど激しい攻防戦を続けている。

にも拘らず、戦闘の質が落ちることはない。


今までの大会で行われてきた試合の中でも、おそらくベストファイブには入るであろう好試合。


(あれは、どういう顔だ)


見逃せない戦いが続いている中、アラッドはフローレンスの表情が気になり始めた。


真剣で、レイに勝つという強い意志は、試合開始時と変わらない。

それでも、小さな変化を感じた。


(何かを考えてる、のか? 奥の手を使うべきか否かを考えてるのか? しかし、そんなことを考えていれば……)


現在、レイはゾーンに入ったという状況に近く、深く考えずとも今までの経験から、最適な動きを行っていた。


(……それを狙ってるのか!!??)


もしもの可能性に気付いたアラッド。

だが、その口を開く前に、リングで変化が起こった。

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