二百九十七話 もう、ある意味攻撃
「……ヤバいな」
二回戦目が始まり、直ぐにレイの出番が訪れた。
対戦相手は三年生。
ただの三年生ではなく、去年の……二年生の時に大会に出場している、参加者の中でも特に猛者の部類に入るエリート。
一年生の有望株……では、彼の本気を引き出すことは出来ない。
その見解は決して間違っていない。
アラッドから視ても、生徒の中でも頭二つ三つ抜けた力を持っている。
そういった印象を持っていた。
そんな一回戦目を観た情報から、最短でも試合時間は一分ほどと予想していた。
「当たり前なのかもしれないけど、訓練ではガチの本気は出していなかったってことか」
アラッドの言葉に、ベルは武者震いしながら同意した。
「そう、みたいだね……ふふ、思わず震えてしまったよ」
「ベル、お前もか。ったく、少し前まではそんなに差がないと思ってたんだが……クソっ、負けられねぇな」
同じ接近戦スタイルで戦う二人は、今のレイとは大きな差があると強く感じ取った。
今回の試合、レイの一回戦目の様に、一瞬で終わることはなかった。
それでも……試合に掛かった時間は、僅か十秒程度。
レイの連撃を何度か受け止め、反撃に繋げようとしていたが、気付いたときにはリングギリギリまで追い込まれていた。
(力を抜く、入れるのタイミングが完璧だったな)
その状況に一瞬気を取られ、防御しつつも……堪え切れない程重鈍な斬撃を食らい、リングの外に吹き飛ばされてしまった。
(あの一瞬で、主に斬撃が当たる部分に魔力を収集させ、ダメージを最小限に抑えた。あの魔力操作の技量を考えれば、やはりそんじょそこらの騎士志望の生徒とは言えない)
しかし、実際にレイはその上級生を十秒程度で沈めてしまった。
いや、正確にはノックアウトはしていない。
ただ……一回戦目の相手と同様、対戦相手はレイの学生が出すとは思えない迫力に圧されてしまったのだ。
(あの上級生だって、モンスターとの戦闘経験はある筈だ。というか、レベルをそれなりに上げてなかったら、攻撃を受けることすら出来ない)
当然、モンスターとの戦闘経験はある。
レベルも学生の中ではトップ帯と言っても過言ではない。
そんな野生のモンスターから向けられる殺意に勝利してきた……にも拘わらず、レイはそれらを超える迫力を醸し出していた。
(殺意の類でビビらせたわけじゃない。ただ、純粋な……そして、濃密な戦意)
アラッドは自分の家に仕えている騎士たちを思い出し……果たして、今のレイほと濃密な戦意を出せる者が何人いるかを数え始めた。
ガルシアなどを含めても、決して多いとは言えない。
「正直、対戦相手が気の毒としか言えませんね」
「ふん、それを承知の上でリングに上がるのでしょう……まぁ、ほんの少し憐みは感じますが」
「今のレイは、ヤバい」
(本当にヴェルの言う通りだ……一応フローレンス・カルロストを倒して特例で騎士の爵位を貰う予定だが、その特例にレイも入れて良いんじゃないか?)
下手な騎士よりもすでに強い。
それが今のレイを視たアラッドの感想だった。
「でも、あの人に……勝てるのかな」
レイの試合の後、三試合が終わり……いよいよシードの選手がリングに上がり、実力を見せる。
二回戦でも圧倒的な実力で制したレイの試合では今日一番の大歓声が巻き起こった。
しかし……フローレンス・カルロストが姿を現した瞬間、それを超える超歓声……いや、悲鳴に近い声が巻き起こった。
(真面目に鼓膜が破れそうだ……前世なら、住民が警察を呼んでもおかしくない声量か?)
殆ど体験してこなかった……ある意味攻撃とも思える歓声に、アラッドはなるべく押し殺そうとしたが……眉間に皺がよることになった。
「あれが、現トップか」
視線の先には、悠然と歩を進める最強の姿があった。
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