二百九十六話 その戦い方は決定事項
午後から始まる試合……タッグ戦のトーナメントがいよいよ始まり、アラッドはレイとならんで試合を観ていた。
「……タッグ戦はタッグ戦で楽しそうだ」
「そうだな。しかし、俺やレイ嬢だと……一人で戦う方が動きやすいと思うが」
タッグ戦が楽しそうだと感じるのは本当。
しかし、自分やレイの戦い方などを考えると、一人でがつがつ戦ってる方が性に合っている。
アラッドに事実を言われ、レイは素直に納得。
ただ……仮に出るなら、アラッドと出てみたいという思いがあった。
ルール的に不可能ではない。
それでも体力などの問題を考えると、生徒が二つのトーナメントに出場するのはあまりよろしくなかった。
それに……強過ぎる生徒が両方に参加するのは、あまり周囲から好まれない。
アラッドやフローレンス・カルロストも、学園長から良ければタッグ戦にも出場してくれないか、というお誘い自体はあった。
それを二人は即却下。
アラッドは一つのトーナメントのみに集中したいから。
そしてフローレンスは、自分と一緒にタッグを組む生徒に不幸が降りかかるかもしれないから。
強過ぎる生徒と実力が釣り合わない生徒がタッグを組んでしまった場合、実力不相応の成果を手に入れてしまう。
その結果得られるのは栄光だけとは限らない。
「それもそうか。しかし……ベルたちは順調に勝ち進んでいるな」
「あぁ。なんだかんだ不安そうにしてたが、上級生を相手にしても引けを取っていない」
適度な緊張感を持っていたことが功をなし、自分たちの実力を慢心することなく、かといって攻めの手を緩めることはない。
(唯一あのメンバーで表情が変わってなかったのは、ヴェーラだけだったな……ベルやエリザたちも優秀だが、やはりヴェーラはレイと同じで、タイプは違えど七人の中でとび抜けてるな)
レイに勝るとも劣らない優秀さを持つヴェーラだが、実力的にタッグを組んでいるリオの評価がヴェーラにおんぶにだっこになることはない。
「ところでアラッド、今回の大会で……糸は解禁するのか?」
「別に封じてるわけではないが……ひとまず、ドラングとの戦いでは使わないつもりだ」
下に見ているからこそ使わないというスタンスではなく、単純にドラングとは剣や魔法のみでぶつかり合いたいという思いがある。
そこで糸を使うのは、アラッド的には無粋。
ドラングは不満に思うかもしれないが、それはアラッドの中で既に決定事項だった。
「ただ、準決勝までいけば使う可能性は高いと思う」
アラッドとドラング側のトーナメントには、一番端っこにフローレンスと同じく、シード枠のジャン・セイバーがいる。
今大会でフローレンスとの決勝戦相手として期待されている実力者。
ジャン・セイバーも学生の枠から大きく突出している実力を持っているので、油断ならない相手であるのは間違いない。
「決勝までいけば、相手がフローレンス・カルロストであろうと、レイ嬢であろうと糸は使うがな」
「……ふふ、それは嬉しい答えだな」
嘗められていない。敵として認識されている。
既に心が戦士であるレイからすれば、アラッドの言葉は百点満点の有難いものだった。
(真面目に、レイ嬢の腕力……身体能力は恐ろしいからな)
自身の身体能力にはそこそこ自信を持っているアラッドだが、本気の腕力勝負などになれば、現段階でもレイ嬢の本気は自分の首を刈り取る力があると認識している。
(柔剣でいなせるか心配な威力があるし……真面目にシミュレーションしておかないとな)
とはいえ、今はリングで行われているハイレベルなタッグ戦の観戦を楽しみたい。
二人で今の動きはあーだこーだと話しているうちに、タッグ戦の全一回戦目が終了。
そして時間はまだまだ夕方にすらなっておらず……予定通り、個人戦の第二試合目が始まる。
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