二百八十九話 考慮する必要はない
「あ、アラッド！ 大丈夫か！？」
「大丈夫です！ 大丈夫なんで教師を誰でも良いんで呼んでください！！」
「わ、分かった」
偶々自分と同学年の生徒に襲われているアラッドを見て、加勢した方が良いのではと思った。
しかし、アラッドはそれを拒否。
問題無いとは思うが、怒りの矛先が知人に向いてしまっては万が一があり得る。
その可能性を考慮し、誰でも良いので教師を呼んでほしいと頼んだ。
（この人が暴走してから一分は経ったか？ あの先輩が呼ぶよりも先に教師が駆け付けるかもな……にしても、なんでこの先輩はこんな馬鹿なことをしたんだ？）
考えるのは無駄……と思っても、やはり考えてしまう。
何故、こうも簡単に自分の人生を潰そうとしたのか。
家からのプレッシャーというのもあるかもしれないが、今回の一件で実家から切られてしまう可能性だってある。
（ヤバい薬物を摂取したからといって、俺を絶対に潰せるか、それとも殺せるのか……そういったことは考えてないのかもな）
仮に、アラッドが目の前のイってしまっている先輩の立場であれば、その保証がなければ自分の将来を潰して道を外れようとは決心できない。
「アラッド！ 大丈夫か！！」
「はい、大丈夫です」
ようやく教師が現場に駆け付けた。
そのチャンスを逃さず、アラッドは暴走先輩の背後に跳ぶ。
当然、アラッドを潰す殺すことだけに執着している暴走先輩は教師の姿に目もくれず、アラッドの方に体を向ける。
「止まれ！！！」
駆け付けた教師は水魔法、ウォーターチェーンを発動し、暴走先輩を拘束。
「っ！？ ぎぃぃいいいいいいあああああああああッ！！！！！」
「おいおい、どうなってんだ！？」
暴走先輩は獣のような声を上げながら、無理矢理ウォーターチェーンを引き千切ろうとする。
普段の状態であれば、強化スキルを使ったとしても、教師の拘束魔法を引き千切るのは不可能。
なのだが、暴走先輩は力任せにウォーターチェーンを打ち破り、再びアラッドに殴り掛かる。
（教師の表情を見る限り、予想以上のパワーアップってところか）
その効力に驚きつつも、アラッドも教師と同じくウォーターチェーンを発動。
「先生」
「助かるぜ！」
教師も再度ウォーターチェーンを発動し、暴走先輩は今度も無理矢理引き千切ろうとするが、教師が懐から普通ではない短剣を取り出し……暴走先輩を軽く斬った。
「っ、あっ……く」
短剣には斬りつけた相手を眠らせる効果が付与されており、会話が通じない状態だった暴走先輩を見事に沈めた。
「ふぅ～、効いてくれて助かった。にしても……アラッド、こいつに何かこう……恨まれる様なことでもしたか？」
念の為、一応念の為……駆け付けた教師はアラッドに尋ねた。
「いえ、特に。上級生と殆ど絡んだことがないんで」
「だよな。それにしても、こいつの状態……はぁ～～～、報告するのが面倒だな」
「……恨まれる様な事ではありませんけど、多分この上級生は俺が校内戦で倒した相手です」
「なるほど……いや、なるほどじゃ済まないんだけどな」
アラッドとしても、自分が校内戦で圧倒した。
そんな理由から恨まれて襲われるのは、さすがになるほどと納得出来る内容ではない。
それなりに戦えてる……そんな戦闘内容にすれば暴走先輩も、違法薬物を入手し、未来を潰してでもアラッドを殺そうとしなかったかもしれない。
しかし、アラッドからすればいちいち対戦相手の執念やプライド、家からのプレッシャーなどを考慮する必要はない。
面倒ではないが、時間をかける必要もない戦いなので、どの戦いも一瞬で終わらせてきた。
「とりあえず……怪我はないか？」
「ないです。凄い動きが大雑把だったんで」
「はは、流石だな。それなら、こいつの処理は俺がやっとくから戻って大丈夫だ。まっ、後日ちょっとだけお話があるかもしれないけどな」
「分かりました」
そうなるのは仕方ないだろう。
そう思うアラッドだが……一つ、不安に感じる件が浮かび上がった。
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