二百八十八話 完全にやってるな
大会開催を明日に控える本日……アラッドはいつも通りに授業を受け、授業が終わればレイたちと特訓、模擬戦を繰り返し……夕食をガッツリ食べる。
そしてその後は風呂に入って就寝……とはならず、依頼されているキャバリオンの制作に勤しむ。
こんな時期にまで、キャバリオンの制作をしなくても良いのでは?
そう思う者が多いかもしれない。
アラッドが学園に入学し、大会に出場するという話も広まっており、現在アラッドが大事な時期を迎えているというのは誰の目で見ても明白。
しかし、アラッドとしてはいつも行っていることを逆にしないと、少し変な気分になる。
そういう訳で、本日も丁寧に丁寧に魂を込め、納得いくまでキャバリオンを造り続けた。
「お疲れ様です」
「おぅ、お疲れ」
「お疲れ様~」
「明日頑張ってね」
「うっす」
すっかり顔見知りとなった錬金術を専門に学んでいる同級生、先輩たちと別れて一旦自室に戻り、大浴場で汗を流してさっぱりしようと歩を進める中……通路で一人の生徒と目が合った。
「……」
知人、友人ではない。
服装から見るに……上級生だということが解る。
(おいおい、こんな場所でか?)
上級生から向けられる感情は……怒り、憎しみ、嫉妬や殺意。
それらの負の感情が混ざり合った目線を向けられていることに、アラッドは直ぐに気付いた。
「あぁ~~~……先輩、まだ訓練場が空いてると思うんで、やるならそこでやりませんか」
どう考えても、のらりくらりと躱せる雰囲気ではない。
ここで戦わないと、ストーカーのように付き纏われるかもしれない。
そう思い、一戦だけ訓練場で相手になろうと思った。
ただ……負の感情に染まっている上級生には、そんなアラッドの考えなど……一ミリも考慮するつもりがなかった。
「がぁああああああああっ!!??」
いきなり大声で吼えながら全力ダッシュで接近し、テレフォンパンチが放たれた。
「っ!?」
もしかしたらという思いがほんの少しだけあったので、上級生のテレフォンパンチを回避に成功。
しかし、突然の行動にアラッドは本気で驚いていた。
(この人、マジかよ。訓練場ではともかく、こんな校内の通路で戦闘なんて始めたら、停学……謹慎? もしくは退学だってあり得るぞ)
今回の一件……アラッドに非は全くない。
寧ろ、汲まなくても良い相手の気持ちを汲もうとした。
それを怒りで暴走している上級生が考えられている訳がなく、完全にアラッドを潰すことしか頭にない。
(そのパンチはちょっと不味いんじゃないか?)
上級生の両腕には火が纏われており、全身に纏う魔力の量も並ではない。
「てか……あんた、校内戦で戦った上級生か」
「あああぁぁあああああああああっ!!!!」
「会話にならないな、こりゃ」
顔をじっくり見て、今自分を殺しに掛かってきている上級生が、校内戦で沈めた上級生だということに、今気づいた。
その事でキレ散らかしているのか? と思ったが、今はそんな事情などどうでも良い。
(目が思いっきり充血してるし、血管が超浮き出てる……間違いなく、やってるな)
違法薬物……というのは、この世界にも存在している。
一つ、アラッドの前世の世界と違う点は、摂取者に与える効果が快楽だけではないということ。
暴走する上級生の様に、強制的に身体能力や操れる魔力量を増やすことが出来る。
(貴族がそういう物を使うのは、評判を地に落とすから普通は使わない……というか、こんな表立って使うことは絶対にあり得ないんだけどな)
ましてや、一切抑える気がない怒号は、直ぐに巡回している教師の耳に入る。
(一応、俺が無実ってところだけは確認してほしいな)
なるべく周囲に被害が出ない様に戦っていると、教師よりも先に先程まで同じ部屋で制作に勤しんでいた上級生が現場に現れてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます