二百二十八話 意識して、認めなければならない

(今回のことは、さすがに伝えておかないとね)


フールはドラングを自室に呼び出し、アラッドが参加したパーティーで何が起こったのかを説明した。


ドラングの言葉をうのみにした令息がアラッドに絡み、その令息が糸でボコボコにやられ……結果パンツ一丁になってしまった。


その結果にドラングは思わず吹き出してしまったが、さすがにフールが何を言いたいのか解る。

だが、子供ながらにプライドがあるドラングがそれを素直に実行出来るかといえば……まぁ、無理な話である。


「……」


「うん、解ってるみたいだね。ドラング、お前はアラッドに守られたんだ」


そう……ドラングはアラッドがあの場でもし自分の相手がドラングなら~~という話をし、ドラングの社交界での評価が最底辺まで落ちるのを回避した。


自分が強くなることに時間を費やし続けているドラングだが、決して脳筋バカではない。


(ッ、クソがッ!!!!!)


そんなことで自分を、俺を守ったつもりか!!!!


と、口に出して叫びたい心情だが……事実として、自分は兄である……敵視してる者に守られたのだと解っていた。


「ふふ。ドラング、僕は君にアラッドに対して社交界で零した言葉に関して謝れ……とは言わないよ」


「ッ!?」


「だって、君自身は本気で悪いとは思っていないだろ。兄は、アラッドはいずれ父である僕を超える為に登り越える壁、踏み台。その気持ちは今でも変わってないでしょ」


「……はい」


ここで下手に嘘を付くことなく、自分の変わらない心情を伝えた。


その答えに対し、フールは怒ることはなく、平常心で会話を続ける。


「仮に謝ったとしても、ドラングの心にアラッドに対しての謝意はない。結局アラッドは絡まれはしたけど、軽くひねって倒したわけだし……だったら別に良いじゃないか、ってちょっとは思ってるよね」


「は、はい」


ここでもドラングは嘘を付いたところで父には直ぐに見破られてしまうと本能的に感じ取り、素直に自分の思いを口にした。


「それに対してアラッドも……全く謝意が籠ってない謝罪を受けたところで、と思ってる筈。なにより、今回の件に関してアラッドはそもそもドラングに対してそこまで怒っていない」


「…………」


アラッドが自分に対してさほど怒りを感じていない。


本来であれば「それは良かった」と思うところだが、ドラングはそれはそれで少々イラっとした。


「何故だか分かるか」


「……」


「アラッドにとって、君はどこまでいっても弟だからだ」


「ッ!!!!!」


薄々気付いていた。

弟だと思っているから、もしくは興味がないから……アラッドは自分に対して、闘争心などを全く向けない。


その現状に本能がキレた。


「落ち着きなさい」


「っ!? す、すいません」


フールがほんの少し圧をかけ、ドラングは直ぐに冷静さを取り戻した。


「ライバル視、敵視している相手にそう思われているのは気に食わないだろう……でも、現時点では自分がアラッドに全く敵わない。それはドラングも理解している……理解しているからこそ、アラッドに模擬戦挑まないのだろう」


「…………」


この問いには、素直に答えられなかった。


一度模擬戦挑んだ時はワンパンで倒され、次に挑んだ時も……大した攻撃を与えられることなく、コテンパンにやられた。


そこから毎日毎日休むことなく訓練を続けた。

あの日から自分は強くなれている……それは実感している。


兵士や騎士たちが自分の成長を褒める際に、よいしょしている様にも感じない。


ただ……自分よりも圧倒的な速度で成長しているアラッドには、まだ勝てる気がしない。

だからこそ、無理に勝負を挑もうとはしてないなかった。


「ドラングは認めたくないかもしれないが、本能的に認めているんだよ……ライバル視している相手は強いと。アラッドも君と同じく毎日訓練を重ね続けている」


それは紛れもない事実であり、アラッドは一ミリも自分の才能に胡坐をかいたりなどしていない。


「アラッドはいずれ私を超える為の踏み台。その気持ちは変えなくても良い。ただ……同じく日々努力を重ね続けているアラッドを、少しは認めるんだ。そうしなければ……君の成長は、早い内に止まってしまう」


憧れの、目標である人物から成長が止まると伝えられ、ドラングは思わず恐怖で震えた。


「だから、自分の為にはそこは認めなさい……強くなりたければね」


「……分かりました」

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