二百九話 もう、断る訳にはいかない
「あ、アラッド様。その……大丈夫でしょうか」
「……分らん」
他人から言われなくても解る……今の自分は目が死んでいると。
「アラッド様……何か、嫌なことでもあったんすか?」
「リン……そうだな。嫌なことがあった……駄目だ、嫌なことって言ったら駄目なんだよな」
父親からとある報告を受け、夕食を食べ終えたアラッドはベッドの上で無気力に転がり……屍の様に動かない。
「もしかして、貴族絡みで何か問題があったのですか」
「そうだな、間違いなく貴族絡みだ。ただ、問題と言ってはならない。普通に考えれば光栄な話だからな……でも、俺としては面倒な内容なんだ」
「…………アラッド様、もしや婚約話が来たのですか?」
察しの良いガルシアは、それらしい内容を口にした。
女性四人はガルシアの言葉を聞いて驚きの表情になるも、性格には違った。
「婚約話は来ていない。いや、もしかしたら父さんの元には来てるのかもしれないけど、俺に伝えられてはいない」
「それでは……いったいフール様から何を伝えられたのですか?」
「ガルシアとシーリアは、付いて来ただろ。また、あぁいったお話が来たんだよ」
「なるほど、そういうことですか」
「そ、それは……確かに嫌なことと言ってはなりませんね」
「だろ」
レイ嬢とのモンスター狩りが終わり、色々とあったが……まぁ、概ね悪くない内容だった。
とはいえ、アラッドとしては当分同じような誘いは受けたくない。
そういった重い気分になるのは、二度目のパーティーに参加する時で良い。
(まさか、こんなにも早く気分が重くなるお誘いが来るとはな……俺、何か悪いことしたか?)
いつもなら、レイ嬢と一緒に狩りをしていた時と同じく錬金術の訓練に励んでいる時間だが、気分が重すぎてまだベッドに転がっている。
「実はな、マリア嬢とエリザ嬢に、ヴェーラ嬢からレイ嬢と似た様な誘いが来たんだ」
「それはそれは……アラッド様からしたら、厄介極まりない誘い」
「こら、リン。そんなこと言うものではありませんよ」
「でも、アラッド様からすれば、気が重くなる話。だから間違ってないでしょ」
「それはそうかもしれませんが……アラッド様、一応お聞きしますが断る訳にはいかないのですよね」
「エリナ……ここで断ったら、真面目にめんどくさい流れに発展する。だから絶対に断れないんだよ」
予想通りの答えが返ってきたので、エリナは申し訳ありませんと頭を下げるしかなかった。
「別にそんなこと気にするな。俺も断れるなら断りたいとは思ってる」
糸の使い方や、上達方法に関して焦らなくても良いとは思ったが、そちらに集中しなくても良いと思っていない。
(レイ嬢からの誘いをまず断るべきだったか……いや、でも受けてなかったらバイアード様との戦闘体験は得られなかった……あれは今の俺に必要な経験だった)
だが、レイ嬢からの誘いを受けてしまった以上……アラッドとしては他の三人からの誘いを断るという選択肢がないに等しかった。
「……うん、やっぱり無理だ。絶対に断れない。これから数回ぐらいは社交界に参加するつもりだし、それを考えると三人の誘いを断るのはあり得ない」
「修羅場になるかもしれない、ってことっすか?」
「しゅ、修羅場というか……いや、そうなるのか??」
とにかく面倒な状況になるのは目に見えている。
(はぁ~~~~~~……こうして良い暮らしが出来てるってのを考えれば、そういう貴族の務めを果たさないと駄目なのかもな)
これ以上考えるのを諦め、ひとまずいつも通り素材を取り出して錬金術の訓練を始めた。
「とりあえず、頑張るしかないな」
「……アラッド様、胃薬を用意しておきましょうか?」
「…………頼む」
今のところ大丈夫だが、遠くない未来のことを考えると、是非とも胃薬は準備しておきたい。
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