百六十四話 もし使われてたら
「なるほど、こういうことだったんっすね」
ハーフドワーフのリンは現在、二人の兵士と一人の魔法使いと一緒にアラッドの護衛として森の中に入っていた。
だが、目の前の光景を観ると……護衛という立場の自分たちは必要ないのではと思ってしまう。
「これ、私たち必要?」
「はっはっは!!! そう思ってしまうのも仕方ないよな。でもよ、アラッド様は侯爵家の三男なんだ。いくら強くても、一人で森に入らせる訳にはいかないんだよ」
兵士の一人がリンの奴隷という立場を気にすることなく、気さくな態度で自分たちが護衛する理由を伝えた。
(これだけ戦えるなら、自然とレベルが上がって良い打撃を打てるようになる)
今のところ、アラッドは帯剣している鋼鉄の剛剣を使わずに、素手でDランクモンスターの突進を抑えていた。
そして力勝負で打ち勝ち、最後は鋭い蹴りで脳天を砕いて勝利。
(模擬戦をした時から解ってたけど、判断力も早い……いや、相手が相手だったから、単純に余裕があった?)
Dランクモンスターとて、弱くはない。
子供からすればどんな攻撃も命に届きうる攻撃力を持つ恐怖の存在。
今でこそリンもDランクのモンスターであれば素手であっさり倒すことが出来るが、自分が七歳の時にアラッドと同じ様な事を出来るかと尋ねられれば……即座に無理だと答える。
「それにな、この前偶々だろうけどアンデットになった盗賊と遭遇したらしくてな。Cランクのスケルトンナイトアーマーやスケルトンウィザードなんてモンスターもいたらしい。それを考えると、俺たちがいた方が良いだろう」
「Cランク……そうかもしれない」
と、兵士の会話に合わせつつも……実際のところは別にいらないのでは? と思っていた。
(アラッド様は自体がとんでもなく強いというのもあるけど、相棒? のクロも相当強い。多分……普通のブラックウルフじゃない気がする)
これは直感だった。
アラッドが従魔として飼っているブラックウルフのクロは、一般的なブラックウルフではない。
そう感じたが、根拠がないので現時点ではアラッドに報告しなかった。
「確かに私たちがいた方が良いのは事実だと思うけど、スケルトンの大群ぐらいなら上位種が混ざっていても、アラッド様とクロなら二人だけで倒せてしまう気がするけど」
「そりゃお前……アラッド様とクロが本気を出せばそうかもしれないけどよ~~」
「? アラッド様は、まだ全然本気を出していないの?」
確かに今さっき戦っていたDランクモンスター、ダッシュボアとの戦闘でも本気を出している様には見えなかった。
ただ……兵士たちの会話を聞いていると、今の戦いが準備運動の様に聞こえる。
「そういえばお前はアラッド様の狩りに参加するのは今回が初めてか」
「うん、初めて」
「なら、まだあれを使った戦い方は観てないか」
あれ、とは一体何なのか。
鍛冶を得意とするリンとしては、一体何を使って戦うのか非常に気になるところ。
「アラッド様、今日はあれを使って戦う予定はありますか?」
「あれって……あぁ、あれね。午後からは使おうと思ってるよ」
「そうですか、ありがとうございます。良かったな、あれを使った戦いが観れるぞ」
「それは良かった」
そう言いながらも、リンの意識は周囲の警戒に集中しなければならないのに、アラッドがモンスターを解体する光景に見惚れていた。
(……凄く早い。でも、雑じゃない。これはもう……もはやプロの域)
一度アラッドの狩りに参加した同じ奴隷のメンバーが、とにかく色々と凄いと言った意味が理解出来た。
そしてリンは数時間後……昼食を食べ終えてから遭遇したモンスターとの戦いで、アラッドが使用した武器を見て固まった。
「……ちょっと、ズルくない?」
思わず口に出してしまったが、アラッドは特に怒ることはなく、リンの言葉に笑って返した。
「ふふ、確かにそうかもな。でも、素の状態では利かないモンスターも当然いる。けど……使いどころ次第では、糸は良い感じにハマってくれるんだよ」
寄ってきた多数のゴブリンに対して、その場から一歩も動かずにスレッドサークルで首を斬り落とした。
リンはギリギリ糸が見えており、どうやって殺したのかを見逃さなかった。
(もし、初めての模擬戦であれ使われてたら、あっさりと負けてたかもしれない)
アラッドが持つ糸というスキルを事前に知っていれば話は別だが、知らなければ自分はかなりの確率で負けていたかもしれない……そう思わざるを得ないリンだった。
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