百六十三話 遠すぎない答え
「……決定、か」
「どうしましたか、アラッド様」
自室でとある人物から届いた手紙を読み終えたアラッドの表情が沈んでおり、心配に思ったシーリアが理由を尋ねた。
「五日後に、とある人と会うことが決定した」
「とある人、ですか? えっと……その人は、アラッド様が苦手な方なのですか?」
表情が沈んでいる事から、会うことが決定した人物が苦手と感じているのかと推測。
だが、アラッドはその人物のことが決して苦手ではなかった。
「いや、別に苦手ではない。レイ・イグリシアスというご令嬢だ」
「ご令嬢……も、もしかしてアラッド様の婚約者なのですか!?」
ご令嬢という言葉が出てきたため、シーリアは思わずレイ・イグリシアスが主人であるアラッドの婚約者なのかと勘違いした。
「早とちりし過ぎだ、シーリア。レイ嬢は俺の婚約者ではない」
「す、すいません」
「そうだな……知り合い、知人という関係が妥当か」
友達というには、まだ出会って回数は一回。
そこまで親密な関係ではないとアラッドは本人は思っている。
「そ、そうなのですね。ですが、そちらのお手紙はイグリシアス様から送られてきたのですよね」
「まぁ……そうだな」
「でしたら、少なくともイグリシアス様はアラッド様に友好的な思いを持っているのではないでしょうか」
気になっている人でなければ、自分から手紙を書いて送ることはない。
というのが、シーリアの見解だった。
「それはそうかもしれないな。ただ、俺は今のところ婚約者とはな……あまり考えられないんだ」
「そうなのですか? アラッド様であれば、その……言葉が良くないかもしれませんが、選ぶのに困ることはないかと思いますが」
侯爵家の三男と、家督を継ぐ可能性は殆どないが、地位は決して悪くない。
そして傍から見ればアホと思われる努力と実戦を積み重ね、誰かを倒し……守る実力はかなりのもの。
最後に現金な内容だが、誰かを養う金は他者と比べて圧倒的になる。
アラッドが他の令嬢に恋愛的な意味で興味はなくとも、令嬢たちからすればアラッドはどこからどう見ても間違いなく超優良物件だ。
「申し訳なさそうな表情をすることはない。シーリアの言う通り、傲慢かもしれないが……一先ず、悪い印象は持たれていない、と思う」
先日のお茶会で出会ったレイ、マリア、エリザ、ヴェーラに関しては悪い印象は持たれてないと思っている。
ただ、初めて社交界に出席した時に近寄ってきたご令嬢たちを、全て弟であるドラングに丸投げした。
その事を忘れていないので、アラッドとしては大多数の令嬢たちから良い印象を持たれているかどうかは……あまり自信がない。
「ただな……会うことが決まった人物のメインはレイ嬢なんだが、一緒に来る人がさっきシーリアが言ったように……少し苦手な人なんだよ」
「そうなんですね……もしかして、イグリシアス家のご当主様も来るんですか!!??」
「だからシーリア、ちょっと話が飛躍し過ぎだ」
さすがに娘と一緒にイグリシアス侯爵家の当主が来ることはない。
当主としては娘が気になる人物とじっくり話してみたいところではあるが、イグリシアス侯爵もフールと同じく基本的には多忙。
ただし、シーリアの言葉はそう遠くもない回答だった。
「飛躍し過ぎだが、遠すぎる答えでもないな」
「え? えっと……」
イグリシアス侯爵家の当主が遠すぎる答えでもない。
であれば、レイ嬢と一緒に来る人物は誰なのか……シーリアは直ぐに答えが出てこなかった。
「イグリシアス家の前当主にして、父さんの騎士時代の先輩にあたるバイアード様が一緒に来るんだ」
「前当主……というと、イグリシアス様のおじい様……ということでしょうか?」
「そういうことだ。会ったのはパーティーに出席した時……一回だけなんだが、妙に気に入られた気がするんだよな」
将来は冒険者になると決めているアラッドにとって、騎士の道に進んで欲しいと思っている人物は要注意人物……だと思っていた。
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