百四十三話 それはそれで恐ろしい
「な、なぁ……なんか、サイクロプスの動きが鈍くなってないか?」
「た、確かにそうだな」
アラッドとクロがサイクロプスとの戦闘を始めてから約三分ほどが経った。
幸いにも他のモンスターが乱入することはなく、アラッドとクロはサイクロプスとの戦いに集中出来ている。
(やっぱりこうなるよな)
ある程度戦い続ければ、目の前の様な光景になる。
それは戦い始めてから直ぐに予測できた。
サイクロプスもモンスターなので、人よりもスタミナの量は遥かに多い。
だが、血の量には当然限界がある。
(判断速度が速くても、モンスターがそこまで気を付けて戦う訳ないか)
出血の量が多くなればなるほど、動きは当然鈍くなる。
「あ、アラッド様。もしかしてこうなることが解ってて戦っていたんですか」
兵士の一人が戦闘中だと分かっていながら、アラッドに真相を尋ねた。
「はい。血を流せば流すほど動きが鈍くなる……そして判断速度も遅くなって、まともに食らう攻撃も多くなる」
戦いが始まってから全く表情を崩さなかったアラッドの考えがようやく分かった。
兵士たちも死線を一つや二つ越えてきたので、血を流せば思ったように動けなくなる感覚は知っている。
だが、それ利用した作戦を実行しようとは中々思えない。
(Cランクのモンスターを相手にそこを考えて戦うのか……やっぱり頭の出来が違うな。そりゃブラックウルフのクロが一緒に戦ってるんだから、ある程度やりやすいのかもしれないけど……動きが鈍くなり出してから、アラッド様の糸も決まりやすくなってきたよな)
戦い始めた頃は少しでも体に違和感があれば全力で引き千切っていたが、今では脚に糸を引っかければ顔面から地面に転び、腕に引っかければ直ぐには振りほどけず、クロがクリティカルヒットを与える。
高速治癒の効果は未だに機能しているが、いくら高性能スキルである高速治癒であっても、失った血までは回復することは出来ない。
「血液制作、なんてスキルがあったらこんな戦法は取れませんけど、サイクロプスがそんなスキルを持っているとは思えませんし……多分、そんなスキルはヴァンパイアとかじゃないと持ってないかと」
「そう、ですね…………そういったスキルが存在するとは思いますが、特定のモンスターしか持ってなさそうですね」
実際に魔力を消費して血液をつくりだすというスキルは存在するが、兵士の言う通り特定のモンスターしか持っていない。
「そろそろ終わりそうですね……よっと」
「ッ!!?? グ、ガ……」
アラッドはマリオネットという技を使い、サイクロプスの左腕を操って自身の顔面を殴らせた。
「ガゥッ!!!!!」
おそらく主人であるアラッドが何かしたのだろうと判断し。大きな隙を逃さず魔力を纏った爪でサイクロプスの首を切断。
頭が無くなった体は力なく倒れ、戦闘は終了した。
「よし、早速解体するか」
「あ、アラッド様。あの……いったい、最後何をしたんですか」
「最後のって言うと……サイクロプスの腕を操ったやつですか?」
「そ、そうです。それです!! って、操ったんですか!!??」
アラッドから飛び出てきた言葉に思わず三人とも驚き固まった。
「ち、力の流れをコントロールしたとか、ではなく?」
「はい、文字通り操りました。マリオネットという技です。そりゃ達人みたいに相手の力をコントロールして返すなんて技術は将来的に出来るようになりたいと思ってますけど、今はまだそんなことできませんよ」
相手の力をコントロールし、そのまま敵に返す。
それはそれで恐ろしい技術だが、兵士たちにとっては敵の体を操るアラッドのマリオネットという技も十分に恐ろしいと感じた。
(最初から使わなかったのを考えると、全快の相手には使えないのかもしれないが……いやはや、糸というスキルは本当に恐ろしいな)
そのスキルを自在に操るアラッドの力量に感服しながら、兵士たちはクロに周囲の監視を任せて解体を手伝い始めた。
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