百四十一話 確かにあった願望

長女のルリナから会話という名の尋問が終わり、ようやく夕食の時間となった。


ただ、その日は寝る時間まで延々と多くの人にお茶会の内容について尋ねられた。


(はぁ~~~~。全く、俺が参加したお茶会がどんな内容だったのかを聞いて、そんなに楽しいのか?)


勿論尋ねた者たちは全員楽しい、もしくは面白いと感じていた。


戦闘に関しての力、発想力や財力など。

多方の面で跳び抜けたステータスを持つアラッドがお茶会に参加した。


これだけでもパーシブル家に仕える者たちからすれば、興味津々になってしまうのも無理はない。


「クロ~~、グスタフ領に着いてから返ってくるまで……いや、帰って来てからも面倒だったよ」


「クゥン」


クロはアラッドの疲れを癒すかのようにサラサラの体毛をこすりつける。


「ふふ、お前の毛は相変わらずサラサラだな」


アラッドがグスタフ領に行っている間も、従者たちがクロの為に購入された魔法のブラシを使い、しっかりと毛並みを整えていた。


「恋人と婚約者なんてまだまだ先で良いのにさ………まぁ、もう少し歳を取れば気分は変わるのかもな」


「クゥ~~~」


ある程度アラッドが何を言ってるのか解るようになったクロは、多分歳を取っても主人の考えは変わらないだろうと思った。


(前世では結構彼女欲しい欲が強かったけど……この世界に来てから一気にそれが薄れた気がするな。もしかして糸という超高性能なスキルを手に入れたからか??)


アラッドが工藤英二だった頃、ブサイクではなかったが決して顔面偏差値は高くなかった。

それに加えて、あまり女子とのコミュニケーション能力が高くなく、そして自分から積極的に彼女をつくろうと行動に移せないヘタレだったこともあり……バッチリ彼女いない歴イコール年齢の学生。


彼女が欲しいな……イチャイチャしたいな……デートしたいな~~、などといった願望は確かにあった。

だが今はどうだろうか?


毎日毎日訓練を行い、モンスターを狩り、錬金術の練度を上げる為に勤しむ。

プレミアムのリバーシやチェスを望む客の為にせっせと作る。


決して人との交流がゼロではないが、それでも今のところ異性に興味を持たずに生活を送っている。


(まぁ、早めに童貞は卒業したいところだよな)


童貞を守れない男は何も守れないという、ある意味名言を知っているが、別にアラッドは童貞を守ろうとは思わない。


寧ろを前世の年齢を合算して二十年以上童貞なので、サクッと捨てたい。


「冒険者になって冒険を始めれば、旅の途中で知り合った人とか……それともそういうお店に行くのか、どうなるんだろうな」


クロの体をモフモフしながらも、一般的な七歳が考えるようなことではない事を真剣に考える。


「まぁ……婚約者になる人は、クロのことも好きになってくれる人じゃないとな」


「……ワフっ!!!」


主人が自分の愛情を感じ取り、自分も大好きだという思いを込めてじゃれ合う。


(まぁ、ヴェーラたちならクロのことを嫌うなんてことはあり得ないだろうな……というか、こんなに良い子なクロを嫌う人なんているか?)


それなりに一緒にいる時間が長いということもあり、アラッドは一ミリもクロに怖い部分があると思っていない。


(家族をモンスターに殺されて、全てのモンスターが憎いと思ってる奴ならクロのことを毛嫌いしそうだけど……そういう人は仕方ないよな)


パーシブル家に仕える者たちからも好かれているクロだが、唯一アラッドをライバル視しているドラングにだけは厳しい目を向けている。


吠えて威嚇することはないが、それでもドラングの気配が近づくとその方向に向かって険しい顔を向けるという話を従者から聞いたアラッドは、思わず苦笑いを浮かべた。


「とりあえず、冒険者になるまでは……いや、冒険者になってからもそういう人は必要ないかな」


前世の自分が聞けばバカげた考えだと思われるが、それが紛れもない今世の考えだった。

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