百九話 例外的な考えもある

「……どうしました? 今日はやけに少々表情が暗いですが」


「そ、そうか?」


父親であるフールから大量の婚約話が来ていると伝えられた翌日、アラッドは普段通り森の中に入って狩りを行っていた。


そんな中、同行している兵士はアラッドの表情が優れていないことに気が付いた。


「もしかして体調が悪いのですか? それならば、本日はお休みになられた方がよろしいと思いますが」


既に数体のモンスターを一人で倒しているアラッドが体調不良とは思えないが、表情が優れていないは確かだった。

それはもう一人の兵士と魔法使いも気付いていた。


「いや、大丈夫だ。特に問題はない」


「そうなのですか? ……では、何が悩みごとでも?」


体長は悪くないが、それでも少し気分が沈んでいる様に感じるため、原因は何なのか知りたいと思った。

そして、自分たちが力になれるのであれば力になりたいとも思っている。


「まぁ、そうだな。昨日……父さんから縁談が来てるって言われたんだ。いっぱいな」


あっさりと話してくれたことに少し驚きながらも、悩みの内容に関してはそこまで驚かなかった三人。


「……なるほど、そういうことだったのですね。気になるご令嬢などはいましたか?」


「いや、特にいなかった」


「えっ? そう、なのですか」


少々強面なアラッドだが、何処からどう見ても優良物件なのは三人とも知っている。

そんなアラッドに縁談を申し込もうとする家が、下手な子を用意するとは思えない。


「そもそも俺は前回の参加したパーティーで全く令嬢たちと喋らなかったからな。名前を言われてもパッと顔が出てこないんだよ」


貴族の令嬢に下手な容姿を持つ者は少ないが、それでも前回参加したパーティーで印象に残る令嬢は全くいなかった。


(普通に考えればパーティーに参加したのに他家の子供たちと全く喋らなかった俺が悪いんだろうけど、中身が二十を超えてるからな……そんな状態で七歳や八歳の子供に恋愛感情を持ってしまったら、結構アウトというか……ロリコン認定されてしまうよな)


前世のアラッド……工藤英二は決してロリコンではない。

故に、せいぜい恋愛感情を抱き始めるのは十五歳を超えた年齢が対象となり始める。


「確かずっと料理を食べていたんっすよね。やっぱりパーティーで出される料理は美味かったっすか?」


「あぁ、かなり美味かったぞ。うちの料理長が作る料理も負けてないが、あのパーティーで出された料理は美味かった」


子供たちの年齢の低さもあって、まさに花より団子状態だったのは間違いない。


「そもそもな話、俺は冒険者になるつもりだからな。どこそこの家と結婚して権力をうんたらかんたらって事は考える必要がない。そういうのはギーラス兄さんの仕事だからな」


「そ、そうですね……しかし、全く興味が湧かなかったのですか?」


アラッドの言葉、気持ちは解る。

しかし男の兵士はそれでもアラッドが何故そこまで同年代の令嬢に興味がないのか、本当に不思議だった。


「そう言ってるだろ。というか、俺は冒険者になるんだから例えパーシブル家と良い関係が築けるとしても、大事な娘を冒険者の嫁になんて出さないだろ」


アラッドの考えは決して間違ってはいないが……全員が全員、同じ様な考えを持っている訳ではない。

令嬢の中にも、家の為なら冒険者としての道を行くのも厭わない。

そんな強い意志を持っている令嬢も数は少ないが、ゼロではないのだ。


「分からないっすよ。やっぱり女の子は自分を絶対に守ってくれるって思う男に惚れるかもしれないじゃないっすか」


「その意見には賛成ですね。なんだかんだで、その点に関しては魅力に感じるご令嬢がいるかと思われます」


魔法使いの女性はちょっと緩い男性兵士の意見に意外と賛成だった。

ただ……アラッドとしては守られるだけの女の子に興味はないので、結果的にそういった女性と成立することはない。

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