百八話 避ける理由

「……普通に考えれば嬉しいことだとは思いますが、俺が進む道は変わりません。そんな男に、貴族の令嬢が付いてこようとは思えません」


「うん、僕も基本的にそうなると思っているよ」


現在もアラッドは騎士になろうとは一ミリも思っていない。

それは父親であるフールも理解している。


「というわけでね、まずは回避できるところは回避しようと思うんだ」


「回避、ですか」


「そうだよ。手紙を送ってきてくれた家全てに、興味無いのでお断りします。とは言えない。でも、ある程度の理由があれば断る材料として使えるんだよ」


「なるほど……少し考えます」


約一分ほど、アラッドはどんな理由であれば婚約を申し込んできた当主たちの提案を回避できるのか考える。

考えに考え……とりあえず一つ、名案が浮かんだ。


「父さん、名案……丁度良い理由が思い浮かびました」


「いったいどんな理由だい」


「強い人が好みということにしてください」


「……それは、物理的にということかい?」


「まぁ……そうですね。武器を使った強さだけではなく、魔法を使った強さでも良いですが……好みとしては魔法的ではなく物理的な強さを持つ女性ということで」


我ながらナイスな案だと思ったアラッド。

貴族の令息は物理的に鍛えられることが多いが、蝶よ花よと育てられる令嬢はそういった強さを求めようとしない。

そして親もそれを強要しようとはしない。


勿論、家柄的に令嬢であっても嗜むことはあるだろう。

だが……令息と比べてかなり比率が低い。


「なるほどね、確かに良い案……いや、断るには最良の理由だね」


貴族たちの中でアラッドは優良株となっているが、大抵の当主たちは娘が可愛いと思っている。

そんな娘に強さを強いるぐらい、アラッドとの婚約関係を求めようとは思わない。


「けどね、アラッド。確かに多くの家に対して断る理由にはなるけど、いくつかの家はアラッドの条件に当てはまる子を用意してるんだよ」


「……そうですか。まぁ、貴族ですし……そういった子がいてもおかしくはありませんね」


ぶっちゃけたところ、いずれはアラッドも結婚して良い感じの家庭を築きたいとは思っているので、特に相手の条件として強さは必要以上に求めない。


(というか、普通に結婚する前に遊べるなら遊びたいし……とりあえず、この歳で婚約なんかはしたくないな)


精神的に生きてきた年数は二十を越えている。

そもそも七歳の子供に恋愛感情など湧く訳がない。


「父さん的に、この家の子とは一度会ってほしいと思うのが幾つかあるんですか?」


「……うん、そうなんだよ。父さんも侯爵家の当主だけど、家の付き合い的に一度ぐらいは顔を合わせてほしいってところがあるんだけど……大丈夫かな」


「えぇ、大丈夫ですよ」


あっさりとアラッドから了承を得られたことに対し、フールは少々間の抜けた表情になった。


「良いのかい?」


「パーティーに参加するよりは良いですよ」


先日の一回以降、もう二度とパーティーに参加しなくて構わないという訳ではないが、ある程度好き勝手やれているので何人かの令嬢と顔を合わせるぐらいは構わないと考えている。


「ただ、本当に顔を合わせたいなら、向こうが美味しい食事を用意してほしいですね」


「ふふ、アラッドらしい注文だね。そこはちゃんと書いておくよ」


「ありがとうございます。それと……本気で自分と婚約したいという意思があるのであれば、本人が一対一で自分に勝てたら……考えると書いておいてください」


「……ふ、ふふふ。確かに良い提案かもしれないね……でも、その内容だと達成出来そうな子は誰一人としていないと思うよ」


「そうなることを望んでいますから」


アラッドの婿にと手紙に名が掛かれている令嬢はどれもアラッドと同年代か一つ上。

歳が十も離れたうえで、圧倒的な才を持つのであれば話は少々変わってくるが……現役の女性騎士お互いに全力ではないとはいえ倒したアラッドに勝てる令嬢など、七・八歳という年齢を考えれば皆無に等しかった。

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