八十三話 引退しなければ……
国王との話が終わり、三人は宿に戻ってリーナとドラングと合流してから夕食を食べ、翌日には領地に向かって王都を経った。
(……そろそろ何か新しい物を作っても良いかもな)
馬車に揺られる道中、アラッドはふと思った。
オセロを作ってから既に一年が過ぎた……制作速度もかなり上がり、未だに制作者に作ってほしいという依頼が来ているが、その数もかなり少なくなった。
稀にタイミングが重なってドバっと依頼が来ることもあるが、一度に複数のリバーシを制作する術を身に着け、制作時間はかなり短縮されて。
時間にはそれなりに余裕が生まれたので、そろそろ新しい商品を作っても良いかなと。
(リバーシ……これの次はやっぱりチェス……いや待てよ、そういえばリグラットさんから本格的なリバーシの大会を行うって話が来てたな。ここでまた競技性があるボードゲームを商品として発売するのは良くないか)
アルバース王国の各街から優勝者を集め、王都で優勝者を決める。
細かいルールも決められており、優勝者には賞金が贈られる。
しかしそれだけでは物足りないと感じたリグラットは優勝者に送る景品として、何か良い物はないかと手紙で尋ねた。
(優勝賞金以外の何か……普通に考えてトロフィー、か)
直ぐに頭に浮かんだのはそれだった。
次に制作者である自分が何かを作るべきかと考えたが、さすがにリバーシに関してはこれ以上仕事を増やしたくないと思い、却下。
(チェスはもう少し後だな……そうなると、コストや手間も考えて簡単に作れる物……ボードゲームじゃないけど、あれにするか)
一瞬で作るのは無理だが、比較的楽に造れる商品を思い付いた。
「なにニヤニヤしてるの、アラッド」
「いや、ちょっとね」
「ちょっとって何よ、教えてよ」
「ん~~~~……後で」
リーナはアラッドがリバーシの制作者だと知っているが、ドラングは全く知らない。
ドラングに知られたら面倒なことになるかもしれないと判断し、それはフールたちも同じだった。
なので、今頭に浮かんだ内容はドラングに知られたくない。
「それより、ちょっと体を動かしくなってきたな」
「なら、昼食の時に私と模擬戦する?」
「うん! お願いします」
アラッドは順調に強くなっているが、まだまだBランクの冒険者だったアリサには及ばない。
そもそも身体能力に大きな差があるというのもあるが、アラッドと同じく訓練を怠らないこともあり、技術は現役時代と比べて全く劣っていない。
模擬戦相手としてこれ以上無い相手。
ただ、昼休憩の時間になればアラッドだけではなくドラングも騎士を相手に模擬戦を行う。
まだレベルが一ということもあり、剣戟は歳相応……ではなく、着実に腕を上げている。
魔力量も増え、火魔法の腕も徐々に上げている。
目指すはフールを超える騎士になること。
しかし生まれて初めて自分で決めた目標……兄であるアラッドを一対一の勝負で倒すという目標は忘れていない。
今すぐにでも勝負を挑みたい気持ちはあるが、今戦ってもコテンパンにやられてしまうのは目に見えている。
アラッドが誰かと模擬戦を行う様子を見るたびに、まだまだ自分とアラッドとの差は広いと痛感させられ……血が零れそうなほど拳を握りしめ、無意識に歯ぎしりしてしまう。
「ふふ、本当に強くなってるわね」
「毎日、鍛えてますから、ね!! まだ母さんや父さんには、及びませんけど!!!」
縦横無尽に放つアラッドの斬撃をアリサは楽しそうな表情で捌く。
そして反撃とばかり突きを放つが、これはステップバックで躱す。
「私やフールは超強いからね。まだまだアラッドには負けられないよ」
今は引退してしまったが、アリサの実力を知る人物たちはこのまま冒険者として活動を続ければ、必ずAランクになっていたと断言する。
故に、アリサの引退を惜しむ声は多かった。
フールが侯爵家の貴族でなければ、溜まった怒りを散らすために勝負を挑んだ者だっていた。
単純に異性の冒険者からはそれなりにモテていたので、色恋絡みでフールに恨みを持つ冒険者もいたが……さすがに侯爵家の人間に手を出してはいけないという冷静さは全員持っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます