八十二話 一回限りの切り札
「さて、大事な娘を助けてくれた恩人にただ礼をするだけではな……という訳でだ、アラッドよ。何か望み……もしくは欲しい物はあるか? 可能な限り応えよう」
礼を言うだけならば、誰でもできる。
可能限り望みを聞き、欲しい物を用意する。
なんとも王族らしく太っ腹な提案。
だが、それらを聞かれても直ぐに浮かばない。
(望みは……特にないな。俺が進む道は冒険者だから、騎士の試験を受ける際に公正な判断を下して欲しいとか、何歳になったら飛び級で受けさせてほしいとか全く思ってないからな)
ディーネが考えた通り、アラッドの実力ならば飛び級で試験を受けられる可能性は高い。
そこに国王からの言葉が加われば、この特例に口を出す者はいなくなる。
(欲しい物も今のところは特に、って感じだな……というか、欲しい物であれば多分自力で手に入れられる気がする)
傲慢に思われる考えかもしれないが、現在アラッドの懐に入っている金額を考えれば、よっぽど高価な物でなければ自分で買うことができる。
一個人が自由に使える資産であれば、そこら辺の貴族と同等……もう数年も経てば、完全に超える。
(欲しい物がない訳ではないが、今すぐに欲しいってわけじゃないから。鉱石に関しては鉱山が復活したからある程度取れるだろうし……うん、あまりないな)
しかし、ここで何も望みはないし欲しい物はないと言えば、それはそれで王族の面子を潰すことになる。
十秒ほど頭を悩ませた結果、これだ!! という内容を思い付く。
「それでは、私が厄介な問題に絡まれた時に一回だけ後ろ盾になってもらえますか」
「ふむ……なるほど。確かに価値がある内容だ。ただ、他にも望みや欲しいものなどはないのか? アラッドの実力であれば、特例をつくって騎士になるための試験を受けることも可能だ」
「そ、そうですか。し、しかしその……私は騎士の道ではなく、冒険者の道に進みますので」
「……そうか、そうだったな。フールもそのように話していたそうだが……まぁ、そこは私が口を出せる問題ではない」
この言葉を聞いて、アラッドは心の底からホッとした。
(はぁ~~~~、ほんっ……とうに良かった!!!! こういう時だけ権力を使ってくるような人じゃなくてマジで良かった)
もしかしたら強制的に騎士の道に進むように話を進められるのかと恐れていたが、そんなことはない。
権力を行使することもあるが、私的な理由で使うほどエレックドロアは愚かではない。
「分かった。アラッドが厄介な問題に絡まれた時、一度だけ後ろ盾となり、力になろう」
「ありがとうございます!!」
「それはこちらのセリフだ、アラッドよ。そなたが第一にフィリアスを見つけ、保護してくれたからこそあの子は無傷で私たちの元に帰ってきてくれた。もう一度礼を言う、娘を保護してくれてありがとう」
「……当然のことをしたまでです」
アリサに言われた通り、オドオドせず堂々とした表情で返事を返す。
そんな娘の恩人である男の子の表情を見て、エレックドロアはとても満足げな表情を浮かべた。
「最後の表情はとても良かったよ、アラッド」
「そうですか? 二人に言われた通り、あまり緊張感に圧し潰されないように意識して対応したんですけど」
「うん、ベストな対応だね。傲慢な態度は良くないけど、堂々とした態度は寧ろ好感を持たれたと思うよ。ところで、国王陛下から提案された礼の内容は本当にあれで良かったのかい?」
息子がどれほどの大金を得ているのか、だいたいは把握している。
なのであまり欲しい物がないのは解るが、もっと良い内容があったのではと思ってしまう。
だが、アラッドはあの内容で良かった。
「俺がこの先、面倒な人物と敵対するかもしれないじゃないですか。なら、そういった時に手を出してしまう前にこの国で絶対の権力を使って潰す……もしくは、完璧な許可を得て自分の手で潰す方が良い手札だなと思ったので」
「……ふふ、さすがフールの子ね」
過去にフールは厄介な存在と敵対したことがあり、直接己の手で叩き潰したことがある。
本人にとってはあまりほじくり返されたくない内容なので、思わず頬が赤くなった。
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