七十六話 指名された騎士は……

「ほぅ……そういえばフール殿がパーティーでよく自慢していると聞いたことがあるが……その話が事実ということか」


「勿論事実よ。この子は既に特別許可を貰ってモンスターと戦ってるのよ」


アリサはフールと同じ様な態度と表情でアラッドの凄さを堂々と自慢した。


訓練を一旦中断した女性騎士たちがアラッドを見た第一印象として、弱そうには見えなかった。

なんなら、同年代の中ではトップクラスだろうとも感じた。


「確かまだ七歳だったか? その歳で既にモンスターと戦っているのは確かに凄いと言わざるをえない」


「森の中を探索する時は護衛と、仲間であるブラックウルフのクロがいるので、特に不安を感じることなく戦えています」


謙虚な姿勢を崩さず、事実を伝える。

最近はDランクやCランクのモンスターと戦うことが増えてきているが、それでも何かあった時……兵士やメイジたちの力は十分に通じる。


だが、女性騎士たちはアラッドの謙虚さではなくブラックウルフを従えていることに驚いた。


「……アラッド君はもしやテイマーの才能があるのか?」


「いや、どうでしょうか? クロを従魔にできたのは偶々なので、その辺りはちょっと……」


「そうか。中々持てる才能ではないからな……さて、うちの騎士団のメンバーと模擬戦を行うという話だったな」


「アラッドは強いわよ~~」


アリサは楽しそうな表情を全く崩さない。

それに対して、女性騎士はアリサが若干子煩悩過ぎるのではと思っていた。


アリサの知人であるディーネもアラッドがどれほど強いのか、正確には解っていない。

だが、アリサが自分の息子を贔屓し過ぎるとも思えない。


「……よし」


団員のステータスは頭の中に入っており、適当な人物を選んだ。


「モーナ、お前がアラッド君の相手をしてくれ」


「わ、分かりました」


ディーネに指名された女性騎士、モーナは昨年騎士になった騎士歴二年目。

しかし男に勝るとも劣らない身体能力を持ち、新人騎士の中でも頭一つ抜けた実力を持つ。


(……ず、随分と小さいのにデカい人だな)


アラッドの前に現れた騎士の身長は百五十センチジャスト。

女性騎士の中でもかなり低い。


だが、男を虜にする部分だけは突出していた。


(皮鎧の上からでも大きいのが分かる……F、G? いや、Hカップか?)


ロリ巨乳という名が相応しい体型を持つディーネだが、その実力は本物。

だが、アリサは一つだけアラッドに伝えた。


「糸は攻撃に使ったら駄目だからね」


「勿論、分かってます」


小声でのやり取り故、他の団員には聞こえていない。

他の団員たちは応援の言葉でも伝えたのだろうと思っていたが、実際は手札の制約を命された。


「よろしくお願いします」


「こ、こちらこそよろしくお願いします!!」


アラッドはいつも通り平常心。

だが、モーナは侯爵家の令息だと知っているので、なるべく角が立たないように戦おうと考えている。


「それでは私が審判を務めさせてもらう。それでは……始め!!!」


合図が下ったタイミングでまずは様子見とばかりアラッドの方が攻め始めた。


「えっ!?」


まだ特にスキルは使っていない。

だが、見た目からは考えられない素の身体能力に驚かされていた。


既にモンスターと戦っているという話はしっかりと聞いていたので、レベルが一でないことは分かっていた。

しかし実際に剣を打ち込んできたアラッドのスピードやパワーを考えれば、まだまだ子供という考えは一気に吹き飛んだ。


「ふぅーーー、本当にびっくりしました」


「それはどうも」


これ以上は押し込めないと判断し、鍔迫り合いを止めるとグラストから教わった基本的な打ち込みを繰り返す。

基礎的な上段、中段、下段からの斬撃を打ち込もうとするが、全てを受け止められてしまう。


(やっぱり騎士になるだけあって、俺よりレベルが高いのは当然だよな。もしかしたら最初の一発で一撃KOとかできるかも、ってちょっと思ってたけど受け止めれたし)


(こ、この子レベルいくつなんですか!? どう考えても十は超えてますよね!! 七歳の子供がこんなに早く斬撃を打ち込めるなんて……もしかしてパーシブル侯爵家の子供たちは皆これぐらい強いんですか!!!??)


なんて恐ろしい一家なんだ!!! なんてアホな事をモーナは考えているが、色んな意味でアラッドが特別なだけだった。

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