七十一話 真っ白になっても仕方ない

夕食の時間になり、宿に戻って夕食を食べ終えたアラッドはフールの部屋に来ていた。


「えっと……アラッド、そんな神妙な顔をしてどうしたんだい? もしかして街中で面倒な令息にでも絡まれたか?」


アラッドのことを信用しているため、息子が原因で何か面倒事に巻き込まれたという発想はない。

だが、アラッドの表情が優れないことから、何かしらの問題を起こしてしまったのかと予想した。


「その……今日、母さんと一緒に王都を探索してる時に迷子になってた子供を見つけました。明らかに貴族の令嬢らしかったので、悪い人に攫われないように一旦保護した方が良いと思い、声を掛けました」


「なるほど、そういうことがあったんだね」


問題らしい問題ではない。

寧ろ良くやったと息子の行いを褒めたい。


迷子になった令息や令嬢を保護した。

これはその家に対して貸しになるので、当主的にも嬉しい話。


ただ、真実はそんな楽観的な内容ではなかった。


「その……迷子だった子が第三王女のフィリアス様だったんですよ」


「ブーーーーーッ!!!!!」


息子の口から飛び出してきたパワーワードを聞いて思わず紅茶を吹き出してしまったが、直前で顔の向きを変えたのでアラッドの顔にかかることはなかった。


「ゲホっ、ゲホっ……あ、アラッド。それは本当のなのかい?」


「家名は名乗りませんでしたが、ピンク色の髪。そして可憐な容姿。そしてフィリアスという名前。どれも第三王女の特徴と一致しています」


「私もあの方はフィリアス様で間違いないと思います。鑑定を使おうとは恐れ多くて思わなかったけど」


「う、うむ。その対応が正解だね。下手に王族に鑑定系のスキルを使えば、罰せられることもある……ふぅーーーーーー、二人の表情から出会った迷子がフィリアス様だということは信じるよ」


本来ならあり得ない話だが、王族の子や貴族の子がお忍びで街を散策するのは珍しくない。

一人で行かせることは決して駄目だが、護衛に騎士や兵士が同伴して行動することは良くある……だが、そういった窮屈な環境が嫌であの手この手で護衛の目を逃れ、一人で街を散策しようとする悪ガキも少なくない。


今回の一件はフィリアスの意志はそこまで関係無く、ひとえにマジックアイテムの効果が優秀過ぎたからと言える。


「それで、保護した後はどうしたんだい」


「軽食と飲み物を騎士たちに買ってきてもらい、噴水がある場所でリバーシをしながら時間を潰してしました」


「楽しく過ごせたという訳だね」


「まぁ、その……話ながらリバーシをしている間は緊張が解けてそれなりに楽しかったですが、第三王女だと解った瞬間は冷や汗が止まりませんでした」


「私もポーカーフェイスを保つので精一杯だった」


我慢しなくて良かったのであれば、心底驚いた表情をしながら大声でまさかの内容に驚いていた。


だが、そこは侯爵家当主の妻。

無様な姿をさらすことなく、予想外の展開を落ち着いて受け入れた。


「それで、その様子だと無事に護衛の騎士たちと合流できたみたいだね」


「はい。騎士の皆さんがこちらの存在に気付いたので、フィリアス様は無事に王城へ帰ることができたと思います」


フィリアスを引き渡した相手は正真正銘、第三王女の護衛騎士。

貴重なマジックアイテムの中には姿やステータスまでも一定時間、真似ることができる者があるが、それらを使った偽物ではない。


「それで、家名を尋ねられたので教えました。そしたら必ず礼をさせてもらうと言われました」


「うん、そうなるだろうね……アラッド、明日は皆で王城に行く」


「はい、そうですね」


ドラング、リーナも一緒に王城で行われるパーティーに参加する。

アラッドの頭の中には美味い料理を食べまくるということしかないが、パーティーに参加するのは決定事項だ。


「ちょっと調べれば、僕たちがパーティーに参加することが分かる」


「そう、ですね……それぐらいは直ぐにバレるかと」


元々それなりに有名な家であり、フールが副騎士団長の座に上り詰めたことで更に有名になった。

そんなパーシブル家当主がパーティーに参加するのか否か、王城に勤務する者が調べれば直ぐに分かる。


「もしかしたらね、国王様に呼ばれるかもしれない」


「……えっ、それは誠ですか?」


「絶対ではないけど、その可能性が高いと思うよ」


フールの言葉がしっかりと耳に入り、久しぶりに頭が真っ白になった。

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