四十四話 安直だが……
「さて……剥ぎ取りよりも先にお前の傷を治さないとな」
「グルルルルゥゥ……」
颯爽と現れて自分を襲ってきたコボルトの上位種を倒した存在。
劣勢な状況の中、いきなり現れて敵を倒してくれたのは有難い。
だが、警戒心を緩めることはできない。
次は自分が命を狙われる番かもしれない……そう思っていたが、目の前の人間からは敵意や殺意を感じられなかった。
「ヒール」
なんと目の前の人間は自分の傷を治し始めた。
そのことが信じられず、思わずポカーンとした表情になってしまう。
「さすがアラッド様ですね。いくつもの属性魔法を扱えて回復魔法まで使える人はそうそういませんよ」
「別に全てが得意って訳じゃないけどな」
適性が高い属性ではなくとも、属性の中身を理解していればひとまずスキルは習得出来る。
回復魔法に関しては前世の知識によって人の体がどの様にして作られているのかを理解しているので、知識が適性を凌駕してしまっていた。
「……よし、もう大丈夫だろ」
「……」
不思議そうな顔でアラッドを見つめるブラックウルフ。
コボルトの上位種を倒した後は自分と戦うものだと思っていたので、まさか傷を治してもらえるとは全く考えていなかった。
「さて、一応打算があって俺はお前を助けた」
「……」
自分に話しかけているのは分かる。
だが、まだ人の言葉を完全に理解する知能がないので、どういった内容を話しているのか詳しくは理解出来ない。
「なぁ、俺の従魔にならないか」
そう言いながらアラッドはブラックウルフに向かって手を差し伸べた。
「「「ッ!?」」」
もしかしたらという考えは頭にあった。
しかし本当に実行するとは二割ほどしか思っていなかったので、ブラックウルフの子供がどう動いても良いよに三人は構える。
「……ガウ!」
自分の命を助けてくれた……という理由もあるが、単純に面白そうだという理由もあってブラックウルフはアラッドの手のひらに前足を置いた。
「おっ、ということは俺に付いて来てくれるってことで良いのか?」
「ガウっ!!」
「そうかそうか、それは良かった!」
(((本当に良かった……)))
万が一を考えると、本当に油断できない相手だったので、ブラックウルフの子供が無事にアラッドの子供になり、三人は心の底からホッとした。
(しかし本当に子供とはいえブラックウルフを従魔にするとは……アラッド様が桁外れに凄いというのは理解していたつもりだが、本当に何度も驚かされるな。ただ……アラッド様にとって面倒が降りかかるかもしれないな)
アラッドにとって少し前まで面倒な存在だったドラング。
ノーラスはこのまま屋敷に帰れば、ブラックウルフを従魔にしたという情報を得たドラングがアラッドにブラックウルフを懸けて勝負しろと言い出すかもしれないと、つい失礼なことを考えてしまった。
(いや、しかし最近のドラング様はアラッド様に絡むことなく真剣に鍛錬を行っている。そのようなことはしないか……羨ましいとは思ってしまうだろうが)
護衛としてアラッドに付いているノーラスも少々羨ましいと思っていた。
「よし、それじゃあ名前を付けないとな…………」
どんな名前が良いか考えること一分……あまり良い案が浮かばない。
(あんまり中二病過ぎる名前を付けるのはなんか可哀想と思ってしまう……あえて単純な名前の方が良いかもな)
ブラックウルフに対して超単純な名前が決定した。
「お前の名前は今日からクロだ!」
「ワゥッ!!!」
超安直な名前だが、ブラックウルフの子供……クロはその名が気に入り、アラッドにじゃれつく。
「おぉ~~~、気に入ったか。良かった良かった」
自分でもちょっと単純すぎるかと思ったが、本人が気に入ったので問題なし。
「クロ、後ろにいるのは俺の護衛……仲間だから、手を出したら駄目だぞ」
「ワゥ!!!」
ジェスチャーを加えながら話すことで、何が駄目なのかをクロは理解して三人に軽く頭を下げた。
「ど、どうもご丁寧に」
「よろしくっす」
「よろしくお願いします」
三人も頭を軽く下げ、クロを加えて狩りを再開……するまえに倒した上位種のコボルトか解体を行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます