三十六話 それはまだ夢かな

ゴブリンの上位種をあっさり倒してからはDランクのモンスターと遭遇することはなく、いつものように全戦全勝。

モンスターと戦い、勝つことは気持ちい。


だが、最近は少し物足りなさを感じていた。


(FやEランクのモンスター相手に糸やその他のスキルは試せたし……そろそろDランクのモンスターをメインに狩りたいな)


身体能力やスキルを使えば現在主に戦っているランク帯のモンスターは、余裕で倒すことが出来る。

そこにエクストラスキルである糸を使えば、勝負にならない。


初のモンスター戦と同じく、その場から動かずに勝負が終わってしまう。

まだモンスターとの戦闘を体験してから一年も経っていないが、もうよっぽどレベルが高いFランクやEランクのモンスターでなければ、全く負ける気がしない。


「アラッド様、やや不満そうな表情ですが……」


「今日の敵はちょっと弱かったというか……最近はモンスターと戦っていて刺激がないんだ」


「アラッド様は剣技や魔法、そしてエクストラスキルの扱いも並ではありませんからね」


メイジの男はアラッドの魔法の腕に戦いを観るたびに驚かされている。


(はたして今まで歴史の中で五歳児がここまで自由自在に魔法を操れただろうか……おそらくいないだろう。私もそれなりに才能があると思って今まで生きてきたが、アラッド様の才能は確実に私以上……いや、才能の一言で片づけるのは良くないな)


アラッドが才能という言葉をあまり好きではないのを思い出し、頭の中に浮かんだ考えを即座に否定する。


(才能があるというより、戦いのセンスがある……という言葉の方が相応しいか。この歳で多くの属性を操り、尚且つあそこまで自由に動き回りながら正確に魔法を放てる者など、絶対にいない。断言出来る)


低ランクのモンスターであれば、アラッドは魔法だけで勝つことができる。

男の見立ててでは、Dランクのモンスターであってもアラッドの脚があれば攻撃を食らうことなく、魔法だけで仕留められる確信がある。


(アラッド様には弱点という弱点がない。格上との戦いを求めるという点は傲慢にみえるかもしれないが、アラッド様はそれを望むだけの実力が備わっている……ドラング様がアラッド様に敵う日は来るのだろうか)


ドラングも日々鍛錬を重ねているが、剣技も魔法も現時点でアラッドに勝る点がない。


「アラッド様、アラッド様はどこまで強くなろう、といった目標はあるのですか?」


兵士の一人が純粋に思い付いた疑問を尋ねた。

現時点で五歳児らしからぬ力を手に入れたアラッド。


本人はそこで満足する気は一切無く、まだまだ鍛錬と実戦を積み重ねている。


そんなアラッドが目指す強さはどの位置なのか……それはある程度決まっていたので、考える間もなく答えた。


「母さんのランクを超える。だからとりあえずはAランク冒険者になることが目標だな」


「なるほど。妥当な目標ですね。でも、自分はアラッド様ならSランクを目指せると思いますよ」


ここ最近でアラッドの子供離れした考えは実力を目にして来た。

まだ五歳であるにも関わらず、Dランクのモンスターと戦ってもやや不満な表情を浮かべていた。


それに加えて、アラッドはレベルアップするのに多くの経験値を必要とする特異な体質を持つ。

それらを考えると、アラッドがいずれ国を代表するような冒険者になるのも夢ではないと、兵士たちの中には考える者が少なくなかった。


「Sランクか……確かに目指せるなら目指したいと思っているが、今はまだ夢だな」


「謙虚ですね。まぁ、冒険者の世界でもあまり調子に乗り過ぎると面倒な輩に絡まれるらしいので、アラッド様は冒険者の世界でも上手く生きて行けそうですね」


「はは、かもしれないな」


謙虚……そう見える部分はあるかもしれないが、アラッドには確かな闘争心がある。

絶対に他の冒険者とぶつかる可能性は、ゼロとは言えない。


そんな話をしながら冒険者ギルドで素材の換金を終え、アラッドは真っすぐ家には帰らずアクセサリータイプのマジックアイテムが売っている店へと向かった。

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