十一話 なるべくバレないように
しっかりと体を動かし、疲れた体を風呂で癒してからぐっすり寝た。
そして翌日、ぐっすり寝たアラッドは朝早く起き、朝食をささっと食べる。
「それじゃ、行ってきます」
「分かってると思うけど、勝てないと思ったら直ぐ引くんだよ」
「はい。引き際はしっかり見極めます」
朝食を食べ終えたアラッドは二人の兵士と一人のメイジを連れ、屋敷を出た。
本当はフールも見送りだしたかったが、そうすれば直ぐにドラングにバレてしまう。
なるべくドラングにはバレないようにということで、アリサも初回だけしか見送らない。
(……バレるのは時間の問題だと思うけどな)
なるべく口に出さないように気を付けるつもりではいる。
だが、どこから情報が洩れるか分からない。
「難しそうな顔してるっすね、アラッド様」
「いやぁ……どう考えてもさ、ドラングに俺がモンスターと戦ってる件は洩れると思うんだけど……どう思う?」
「そうっすね……周囲にドラング様がいない時に気を抜いてその話をして、まさか近くにドラング様がいた。そんな状況が起こらないとは言い切れないっす」
「……モッチの言う通りだな」
今回アラッドの護衛に付く兵士の一人、モッチ。
五歳の誕生日に槍技のスキルを習得し、パーシブル家の兵士に志願して見事合格した。
「ノーラスも同じ考えか?」
「そうですね。いずれバレるのは問題かと。今回の件はアラッド様だからこその特例です。先日の戦い、観させてもらいましたが綺麗な動きに鋭い拳。あれは一般的な五歳児が放てる拳ではありません」
モッチと同じく兵士のノーラス。
五歳の誕生日に剣技のスキルを習得。父は同じくパーシブル家に仕える兵士。
「その、私は見ていませんでしたが……そんなに凄かったんですか?」
「あぁ、凄かったな。正直なところ、もっと接戦になるかと思っていた。だが、アラッド様は模擬戦開始の合図と同時に身体強化のスキルを使用し、拳と脚に魔力を纏って動き、あばらに拳を放った」
「ドラングは何度かバウンドして倒れた……いや、あばらの骨が折れてグラストさんがそこで強制終了させて、俺が勝った」
「そ、そんなことがあったんですね。是非観てみたかったです」
五歳の誕生日に火魔法のスキルを授かったユーナ。
騎士や兵士とは違う場所で訓練を行っているので、アラッドとドラングの模擬戦は観ていなかった。
だが、部分的に魔力を纏うという技術の習得が難しいことは身を以て知っているので、アラッドが五歳児にしてどれだけ凄いのかは直ぐに理解出来た。
「あんまり大きな声で言えないっすけど、ドラング様がこのことを知れば自分もモンスターと戦うと言い出しそうっすね」
「あいつの性格上、絶対に言い出すだろうな」
「……ドラング様には申し訳ありませんが、やはりまだ実力が足りないかと」
「全然申し訳なくないぞ。あいつは実力があっても危なっかしい奴に変わりはないからな」
仕える家の令息に関して、あまり否定的な意見は言えないが、モッチとノーラスはドラングでは絶対に無茶をするとしか思えなかった。
(アラッド様が無茶をしないと断言は出来ないっすけど、アラッド様はこう……勝てる無茶しかしないと思うんっすよね)
(ドラング様の性格だと、勝てないモンスターであっても特攻しそうで恐ろしい……勿論危なくなれば瞬時に助けに行くが、一人で戦うと言われた日には……後々が面倒になる予感しかしない)
二人ともドラングが嫌いというわけではない。
だが、アラッドと比べて当たり前だが子供なのだ。
そこが面倒に感じてしまう。
そもそもの身分が違うので、歳は二人の方が上であっても立場はドラングの方が上。
仮にドラングの護衛として森の中に入り、ドラングがモンスターに負けそうになれば助ける。
だが、自分が今戦ったモンスターに勝てなかったとドラングが認めなければ、当然文句を言いだす。
その文句を当主であるフールに伝えようとしても、フールは人格者なので二人にそんなしょうもない理由で罰を与えたりしない。
寧ろよくやってくれたと労いの言葉をかける。
しかし……ドラングの機嫌一つで本当にとばされてしまうのかと思うと、一緒に行動するのは心臓に悪いと思ってしまう。
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