十話 さすがにもう一人いた方が良い

フールとの会話が終わり、訓練場に戻る途中……アラッドは内心、モンスターと戦える機会を得たことにかなりテンションが上がっていた。


(……言ってみるものだな。本当にモンスターと戦える様になるなんて……ヤバい、超テンション上がってきた)


まだ実戦経験がゼロのアラッドだが、低ランクのモンスターであれば倒せる自信があった。


(兵士二人を連れての行動だけど……低ランクのモンスターが相手なら、全部俺が相手にする。魔力の総量はそれなりに多くなってきたし、雑魚相手なら夕方まで相手をしていても大丈夫……の筈だ)


実際にモンスターと戦ったことはないので、万が一にも問題はないと断言は出来ない。

しかし、やはりそれなりに戦えるという自信はあった……主にその自信はエクストラスキル、糸から溢れていた。


(早速明日の朝から街の外に出てモンスターと戦える……今日の夜は寝られないかもしれないな。寝る少し前まで動いておこう。そうすれば眠れるかもしれない)


明日遠足に行く小学生の様な気分になっているが、そんな自分を仕方ないと思ってしまう。

リアルでモンスターと遭遇し、己の手で倒す。


こういった世界に転生した際に、一度はその経験を味わってみたいと思っていた。


(夜寝られなくて、明日の朝寝ぼけ状態ってのは良くないし、しっかり汗をかいとかないと)


明日のことを考えながら訓練場に入ると、そこではアリサが兵士たちを相手に無双していた。


「ほらほら、もう少し粘りなさい!! そして小さな隙でもいいから見つけるのよ!!」


「は、はい!!!」


隙を見つけなさい。そう言いながらもアリサの連撃は止まらない。


(いや、母さん……どう考えてもその兵士が隙を見つけて反撃に移ることは無理だと思うんだけど)


パーシブル家の者を守る兵士として、当主の奥様に勝てなくてどうする……と、思う者は周囲の兵士たちの中にはいない。


元Bランク冒険者だったアリサ。

フールの第三夫人になってからも、兵士たちの訓練に参加するのは当たり前。

偶に実戦の勘を鈍らせない為に森の中に入り、モンスターを討伐することもある。


「……母さんはもう少し手加減を覚えた方が良さそうだな」


「私も同意見ですね。そんなことをアリサ様に直接言えませんが」


「グラストさん……いや、別に言っても良いと思いますよ。母さんは後輩の育成とかに目を向ける前に父さんの奥さんになったので、あんまり上手く手加減できないんですよ。あれだと、あまり兵士の鍛錬にはならないかと」


「……やはりアラッド様は他の子と比べて見ている視点が違いますね……話は変わりますが、何か良いことでもありましたか?」


普段からあまりポーカーフェイスを崩さないアラッドの口端がやや上がっている。

それだけで何かアラッドにとって良いことがあったのは明らか。


「えぇ、良いことがありましたよ。父さんからの褒美として、兵士二人が同行するなら森の中に入ってモンスターと戦ってもいいという許可を貰いました」


「ッ!!!! それは……誠ですか」


「はい。しっかり許可を貰いました。明日の朝から討伐に向かいます。今はかなり気持ちが高ぶっているので、明日寝不足にならないように寝るギリギリまで動いておこうと思っています」


「そうですか……」


本来であれば、兵士二人が同行するとはいえ五歳の子供をモンスターと戦わせることはない。

だが、グラストの眼から視てもアラッドの実力がずば抜けているのは解る。


(武の才があるギーラス様でもモンスターとの実戦は十歳の誕生日を迎えてから。その条件はルリナ様とガルア様も変わらない……しかし、アラッド様にはそれを覆すだけの力がある、ということですか)


特別扱いをする当主の気持ちは解る。

だが、さすがに兵士二人は少ないと思った。


(あまりぞろぞろと歩けば、丁度良い獲物が逃げる……それを考えると、せめて一人……魔法メインで戦う者を加えた方が良さそうだな)


これに関しては後でフールに必ず進言しようと決めた。

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