第74話 決着! そして……

「ちぃっ、あいかわらずイヤらしい!」


 覇鈴はりん苛立いらだたしげに声を荒げる。

 だが、冷静さは失っていなかった。

 周りの騎兵きへいたちに指示を飛ばして、反撃の体勢を整えていく。


「防御力が高いヤツを前に出して、ゆっくり後退しつつ攻撃の陣を整えて。数はこっちが多いんだから、体勢を整えてから一気にぶちのめすよ!」


 覇鈴の指示で、盾を構えた騎兵の一団が前進し、逆に他の兵たちは湖の方面へと後退し、乱れた隊列を立て直して、兵種毎に陣を再編成する。その一連の流れに覇鈴は満足げな笑みを浮かべた。湖を背後にすることで、【背水はいすいじん】という特殊陣形効果で攻撃力も増加する。その効果をあわせれば、ちょこまかと動くベンジャミンの緑林軍りょくりんぐんなど一撃で粉砕できる。

「よし、このあたりまで近づけば」

 覇鈴が呟く。視界の端に、特殊陣形発生のアイコンが表示される。それを確認して、最終的な陣形発動指示を出そうと腕を振りかぶったときだった。部隊に同様のざわめきが走った。


「なんだ!? 動けないっ──罠だ!!」


   ◇◆◇


[やりぃ]


 相変わらずの口調でぴーのが呟く。

 ギルドハウスの正門から湖まで続く草原の一角に彼がしかけていた罠が発動したのだ。

 レベルが低めの盗賊でも設置できる、初歩的な罠。だが、T.S.O.の仕様に疎い三オンプレイヤーに対しては、十分に効果を発揮したようだった。

 すかさず、僕はバルコニーの双子へ指示を飛ばす。


「今だよ! 動きが止まった敵に魔法ぶちかまして! 全力で! 連続で!」


[ラジャー!!]

[了解です]


 待ってましたと言わんばかりの返事に続いて、大きな炎の魔法が発動し、罠にはまった覇軍へと放たれる。


 ──ドゴォオオン!


 タイミングよく放たれた双子の魔法が相乗効果を発揮し、最大限の威力となって炸裂した。

 これが決め手となった。

 覇軍の陣は崩壊し、兵士たちは我先にと退却を開始する。

 ベンジャミンの声が高らかに響き渡った。


[テキショー捕らえたりぃ! ──って、魔法止めて! もうダイジョーブってか、ワタシも巻き込まれちゃいマスよー!!]


「ジャスティスもミライもストーップ!!」


 僕の声に応じて、双子の魔法が止まる。

 煙が流れ、次第に戦場の様子が見渡せるようになってくる。

 湖の手前の一角に、ベンジャミン軍が逃げ遅れた覇軍の兵士を囲んでいた。

 その中心部分で、覇軍のギルド旗を手にしたベンジャミンが、武器を失って地面に座り込んでいる女騎兵に矛を突きつけている。

 僕の視界の端でカウントダウンされていた攻城戦の時間表示が、いつの間にか勝利という表示に変わっていた。


「これで終わり……?」


[そうデース! 我々のビクトリィデース!]


 ベンジャミンの宣言に、同盟チャット内に歓声が続いた。


   ◇◆◇


「こんの、変態ベンジャミンっ! 今度こそ絶対に許さないからなっ!」


 ギルドハウスの前庭に少女の絶叫が響いた。

 三オンのに所属する部曲【小覇王しょうはおう】の部曲長【覇鈴はりん】だということを、ベンジャミンに教えてもらった。

 拘束こそされてはいないが、一緒に連れられてきた二人の女騎兵と共に、頭上に捕虜扱いであることを示すマークが表示されている。

 一足遅れて、ベンジャミンの部曲【緑林軍りょくりんぐん】の別働隊が前庭に入ってくる。逃げ出した小覇王の騎兵たちが、完全にWoZのギルドハウスの勢力外へと出たことを確認しに行っていたそうだ。ベ軍の別働隊を率いていた仮面をつけた騎兵が僕たちの前へ進んでくる。


「お仲間も無事でしたよ」


 そう言う仮面騎兵の後ろから、バツが悪そうな表情を浮かべたアオとロザリーさんが姿を現す。


「いやー、やらかしちゃったなー」

「ホント、不覚不覚」


 年少組が喜びの声を上げて二人へと駆け寄った。

 案の定、敵の術士の攻撃をまともに受けてやられてしまっていたらしい。気がついたら、敵の後方部隊の中の檻車かんしゃ──移動用の牢屋の中に捕虜として囚われていたのを、敵の様子を見に行ったベンジャミン軍の別働隊に助けられたそうだ。


「二人とも無事でよかった、それと、えっと……?」


 僕は胸をなで下ろしてから、仮面騎兵へと視線を向ける。

 すると、そのことに気づいたのか、彼はゆっくりと仮面を外した。


「お伝えするのが遅れちゃいましたね、ガウです。ゲームの中では蘭王ランワン、えっと日本語読みだと、って名乗ってます」


 仮面の下にはリアルのガウと似た雰囲気の青年の顔があった。

 僕の後ろからくーちゃんがピョコンと顔を出す。


「二人ともリアルとそっくりなアバターなんだねー! ビックリしちゃった、でも、本当に助かった! ありがとー!」


 さらにザフィーアとリィンも姿を見せ、プチ同窓会的なノリになる。

 そんな僕たちに、ロザリーさんが声をかけてきた。


「はいはい、事情はよくわからないけど、オシャベリは後回しにして、まずは目の前のことを片付けちゃわないかい?」


 そう言いつつ、蚊帳かやそと状態でふてくされている覇鈴たちを親指で指し示した。


「あ、そうでした!」


 僕は慌てて彼女たちへと駆け寄っていく──

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