第62話 引き金
三オンプレイヤーキャラクターによる、T.S.O.プレイヤーキャラクターの殺害事件。
僕は、その事件が発生してから、さほど時間をおかずに詳細を知ることができた。
他でもない、当事者の一人である、みくるんさんから直接話を聞かされたからだ。
先日の闇王戦で、成り行きとはいえ、僕たちはみくるんさんの命の恩人ということになった。だが、今回情報をくれたのは、その時の恩というワケではなく、単にいろいろな人に話を聞いて欲しいというだけだったように僕には思えた。
僕は今、北海道にある実家に帰ってきている。
T.S.O.の情報流出事件に関連する
しかし、肝心の情報流出に関しては、何も解決していなかったことが、この殺害事件により明確になった。
「はぁぁ……」
ギルドハウスの中、大広間で一人、盛大にため息をつく僕。
現実世界では、まだ早朝の時間だ、誰もいなくて当然だ。
僕は実家に帰ってきてからというものの、食事や睡眠など生活時間以外、ほとんど全てをT.S.O.へのログインに費やしていた。
両親、特に母親は遠回しに
弟の
「やっぱり、僕のせいなのかな……」
僕たちは情報流出事件の解決に向けて動いていた。そして、いろいろあったが、黒幕と思われる存在からのメッセージに指定されたように、闇王を倒し、光る石版に名前を刻んだ。
だが、その後が問題だった。
突然ゲームから切断され、復旧したと思ったら、三大VRMMO融合というとんでもない事態が発生していたのだから。
どう考えても、僕が
しかも、結果として、肝心の情報流出についても解決するどころか、止めるためのヒントすら得ることができなかったのだ。
考えることが面倒になって、大テーブルに頬をつけるように身体を倒す。
大広間の窓が視界に入り、必然的にその向こうの光景が飛び込んできた。
──天へとそびえる水晶の塔。
先日まで、闇王の墓所があった場所に、突如出現した巨大建造物。
闇王を倒してゲームから切断された後、T.S.O.内のプレイヤーは例外なく全員がマイハウスの中へと強制移動させられていた。そのため、水晶の塔については、まだそれほど話題になっていない。そもそも、水晶の塔が見える範囲にマイハウスやギルドハウスを持っているプレイヤーは限られているのだ。おそらく、湖を挟んで対岸に位置する僕たち、WoZのギルドハウスが一番近い場所だと思う。
「おはようございます」
不意にかけられた声に、僕は慌てて身体を起こした。
「あ、サファイアさん。は、早いですね」
ギルドハウスの入口から、サファイアさんが入ってくるところだった。
だが、なんとなく疲れた表情のように思えたのは錯覚だろうか。
「……もしかして、徹夜明けですか?」
「あー……わかっちゃいます?」
一応、シャワーを浴びて気持ちも入れ替えてきたつもりだったんですがと笑う少女。
だが、
ふう、と息をついて、サファイアさんが僕の対面に座る。
「本当は少しでも仮眠を取るべきなんでしょうが、どうにも寝付けなくて。もし、アリオットくんが良ければ話につきあってもらってもいいですか?」
僕はもちろんかまわない。ゲームにログインしてても、実際には何も手に付かない、何をしたら良いのかわからない状態なのだ。むしろ、サファイアさんならT.S.O.を含む現状の事件に対して僕なんかより多くの情報を持っているのだ。そして、彼女はその期待に応えてくれた。
サファイアさんはプレイヤーの動向について、淡々と話し始めた。
T.S.O.、三オン、H.B.O.の三プレイヤーのうち、まだ、あまり動きを見せていないのがH.B.O.のプレイヤーたちである。
H.B.O.のプレイヤーたちは【ソレスタル・シティ】と呼ばれている彼らの本拠地でもある巨大都市内で、様子を見ている状態のプレイヤーが大半らしい。
ソレスタル・シティには武器や防具を取り扱うショップや、T.S.O.で言うところのマイハウスなど、冒険の拠点施設が全て集約されている。H.B.O.では中央部にあるクエストカウンターという施設で、さまざまな依頼を受託、街の外の冒険エリアへ出動し、クリア後、再びシティのクエストカウンターに戻って報酬を受け取るというのが基本的な流れとなっている。ネット上の情報などでは、クエストカウンターの機能は完全に停止しているものの、プレイヤー個人で外に出ることはできるそうだ。
逆に、三オンのプレイヤーたちは、出現地点となる拠点はなく、プレイヤーたちだけがT.S.O.に放り出されたという状況だった。T.S.O.でのギルドにあたる集団単位は、三オンでは
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