第60話 とある中堅ギルドの受難①

   ◇◆◇


 深い森の中をうように続く街道を、数人のプレイヤーたちが駆け抜けていく。

 そんな彼らの顔には焦りと怖れ、それに後ろめたさのような未練の色が浮かんでいた。


「ちょ、ちょっとシャレにならないわよ!」


 先頭を走るネコミミ少女が焦りを隠せない様子で叫ぶ。


「まさか、こんなことになるなんて──!」


 だが、そんな彼女の声に誰も応えない。いや、応えられないのだ。

 まさか、このような予想もつかない事態が起きているとは、彼らの誰もが想像できていなかった。


「いったいぜんたい、どうしたらいいのさー!」


 ヤケクソ気味に叫ぶネコミミ少女──だが、そんな彼女の叫びは虚しく響き渡るだけだった。


   ○


 ネコミミ少女こと、をリーダーとするギルドの面々は、T.S.O.へのログインが復旧してから、すぐにゲーム内へと戻った。

 闇王やみおうを倒す場に居合いあわせたのは良いのだが、その後、なにが起きたかわからないまま強制的にゲームから弾き出されてしまったのだ。

 と、いうことは、ゲーム内のキャラクターみくるんは、最後にいた場所、闇王やみおう墓所ぼしょ内に残っている可能性が高い。一応、ボスである闇王は撃破したものの、高難度ダンジョンの最深部である。キャラクターが安全とは到底言い切れない。

 そういうこともあって、不安にさいなまれたまま、みくるんのプレイヤーはログイン試行を繰り返していたのだ。

 そして、その甲斐あってか、ログイン復旧のタイミングから、それほど間をおかずにゲーム内のみくるんに復帰することができた。


「なんだ……あせってソンしたー。ちゃんと安全地帯に移動してくれてたんだー」


 しかし、実際にログインできた場所は、自分のマイハウス──安全地帯の中だった。

 みくるんは安堵あんどのあまり、可愛いデザインの天蓋てんがいがついた自分のベッドに深々と腰掛けて、そのまま仰向けになる。

 そして、一緒に闇王の墓所にいたギルドメンバーたちを呼び出すと、ギルドハウスへと一度集まることを提案したのだった。


 ○


「とりあえず、リーダーも皆も無事でよかったな! 一時はホント、どうなるかと思ったけどさ! それにしても、闇王との戦いはスゴかったな。オレたちもけっこう活躍できてたし、あとでもう一度動画を観てみようぜ!」


 狼風の衣装をまとった戦士がギルドハウス内に響き渡るような大声で喜びを爆発させる。

 そのウザさに多少ひいてはしまうみくるんだったが、正直なところ、内心では自分もホッとしていた。

 自身の根拠のない不安から、ギルドメンバーたちを煽り立てて、半ば抜け駆けのような形で闇王戦へと突入した。

 結果、その行為は裏目に出てしまった──行動を共にした仲間たちともども、全滅のにあいかけたのだ。

 他のパーティが助けに入ってくれたおかげで、命を助けられ、しかも、最終的に闇王を倒してクリアすることはできたのだが、それは幸運の結果であり、そこに至る経緯については、メンバーたちに愛想あいそを尽かされてもしかたがないと思っていた。

 だが、ギルドの仲間たちは、そんなことは、もう気にしていない様子だった。

 特に狼衣装の戦士君に至っては、闇王戦の興奮をこれでもかと、メンバーたちに力説し、それをきっかけに雰囲気が良い方へと盛り上がっていた。


「それも良いけど、とりあえず現状について打ち合わせておこうか」


 みくるんが発言すると、メガネをかけたインテリ風の青年神官が提案するように挙手した。


「一応、ゲーム外でも情報を集めてはいるのですが、状況は思わしくないですね。いっそのこと、王都おうとへ向かってみませんか? あそこなら本拠地にしているギルドも多いですし、プレイヤーもたくさんインしていると思います。ここのギルドハウスにもっているよりは効率が良いと思うのですが」


 みくるんは少し考えこんだあと、神官の提案を採用した。


「そうね、今は引きこもっているより、とにかく情報を集めることが先決よね」


 確かに状況の変化は起きているだろうし、それらの情報を集める必要があると思った。

 ただ、気になるのは王都までの道だ。ギルドハウスとは別に、マイハウスを王都に置いているプレイヤーも多いのだが、みくるんのギルドメンバーたちは全員、王都を引き払って、このギルドハウスにマイハウス機能を移している。そのため、転移石テレポートストーンを使用してのワープができないのだ。そのため、王都まで徒歩で向かうことになる。


「そこはあまり心配しなくてもイイんじゃね? ぶっちゃけ、王都はご近所さんみたいなもんだろ?」


 狼戦士が肩をすくめて見せる。

 彼の言うとおり、このギルドハウスから王都まで、それほど距離は無く、出没するモンスターたちも脅威といえるレベルでは無い。ここにいるメンバーたちでまとまって行動していれば問題も起きないだろう。


「そうね、そのとおりだわ」


 みくるんはそう結論づけて、善は急げとギルドハウスをあとにしたのだった。

 そして、王都へ向かう道半ば、ちょうど行程の半分になろうかというところ。


 みくるんたちは、T.S.O.では見たことがない騎兵きへいたちの集団に囲まれてしまっていた──


「ちょっと、なんなのよ、これ──!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る