第58話 僕たちがたどりついた場所は……
「ふああぁぁぁ……」
僕は
学園があるオノゴロ海上都市からオノゴロラインと飛行機を乗り継いで、ようやく実家の街がある北海道へと帰ってきた。
空港の正面玄関前から花月と共に無人タクシーに乗り込む。
オノゴロは雲一つ無い快晴の気持ちい春の空だったのだが、ここ北の大地は、
後部座席に座った花月がボソリと呟く。
「なんか、ラピスちゃんの時のこと思い出すね」
「うん」
「事件、これで解決したのかな」
「……そうだといいな」
同時にトラブルが発生していた他のVRMMO、三オンとH.B.O.も障害から回復したとの情報も入り、とりあえず僕は胸をなで下ろした。やはり、あの光の石版へのアクセスが原因の一端ではないかと不安に
その心配が解消されたことで、安心しすぎたのか、飛行機に乗って即、深い眠りに落ちてしまい、着陸後、花月ともども乗務員に揺り起こされるという失態を演じてしまったのは余計だった。
結局、
僕は小さくため息をついた。徹夜明けの疲れが身体にのしかかってくる。
とりあえず、今はまっすぐ実家に向かおう。そして、青葉に連絡してT.S.O.にログインして……
再び強い
◇◆◇
アクセスが復旧して間もないT.S.O.内部に、さっそく多くのプレイヤーがログインを開始していた。
T.S.O.の中心部である
きらびやかなドレス風の衣装を
「ようやくコレで安心してT.S.O.に復帰できるねー」
「まだ、安全と決まったワケではないがな」
見事な
「でもさ、闇王の墓所も攻略されたんだし、もう大丈夫なんじゃないのー」
そうむくれてみせる少女に、荷馬車の御者台に座った眼鏡をかけた神官の青年が笑いかける。
「まあ、今までは慎重に様子を見ていたけど、そろそろ品物を仕入れてこないとギルドの貯金も心許ないからね」
もともと、王都から目的のヴァン・グランの港町までの間に出没する敵は、それほど強くはなく、彼らのレベルでも充分対応できるはずだった。それでも、VRゲームハッキング事件による情報流出に関する恐れが上回り、彼らも大多数のプレイヤーと同様、王都にあるギルドハウスに引きこもっていたのだ。
荷馬車の後ろについてた女騎士が白銀の
「さすがにギルドハウスが競売に出される瀬戸際とあれば、しかたないでしょう」
「まあ、そうッスよね!」
荷台の上で
「今のままでは王都の外に大きなギルドハウスを持つなんて夢物語……って、アレ?」
不意に盗賊が、口を大きく開けたまま前方を指さした。
「な、なんすか、アレ。街っすか? てか、あんなデカい街ありましたッけ?」
「なにを言ってるんじゃ、こっから港町までは街道だけじゃ……って、へ!?」
驚いてしまったせいか、ドワーフが思わずプレイヤーの地を出してしまったが、誰もそれを笑えなかった。
全員の視線が同じ方へ向けられる。
街道が続くはるか先、地平線が拡がっているはずの場所に巨大な塀に囲まれた街があった。
しかも、西洋ファンタジーをモチーフとしているT.S.O.には似つかわしくない、近未来SF的な巨大ビルが林立した街。
「街……いや、ダンジョン? っつーか、どっかで見たことある気もするけど……」
ドワーフのプレイヤーがなにかを思い出そうと考え込むが、今度は後ろにいた女騎士が注意を呼びかける。
「こっち見て! ……あれは何? 軍隊?」
女騎士が指さしていたのは巨大な街とは反対の方角だ。遠目ではあるが土煙が舞い上がっているのが視認でき、さらに目をこらすと、馬に乗った戦士風のプレイヤーたちが集団となってこちらに向かってきている。
「ちょっと、コレってヤバいんじゃないの!?」
魔法使いが怯えた声を上げると、神官が御者台から飛び降りる。
「みんな、とにかく王都まで逃げるぞ!」
「お、おい、馬車はどうするんだよ、うちのギルドの数少ない財産なのに……」
「そんなこと言ってる場合じゃない! あれが敵だったらヤバイってレベルじゃねぇ! とにかく逃げて王都のプレイヤーたちに知らせないと!!」
◇◆◇
──三大VRMMO融合。
トルネリア・サーガ・オンラインこと、T.S.O.
三国兵乱オンラインこと、三オン
この日、株式会社ノーザンライツ配下の関連会社が運営する三つのVRMMOゲームが一つのゲームとして融合してしまうという新たな事件が発生したのだった──
ログインすると、全く見覚えがない西洋ファンタジー世界に放り出されていた三オンプレイヤー。
プレイヤーたちの拠点である中央都市ソレスタル・シティごと異世界に転移してしまったH.B.O.プレイヤー。
突然、自分たちの世界に、見知らぬ巨大都市と多数の兵士たちが出現したT.S.O.プレイヤー。
当事者全員が困惑の海へ叩き込まれ、混乱の渦が急速に全てを呑み込んでいく。
そして、時間が経たないうちに最悪の事態が発生する。
ゲーム内でT.S.O.プレイヤーが三オンプレイヤーの襲撃を受けて死亡したのだ。
さらに、以前と同様にネット上へ個人情報の拡散が確認された……
事件は何も解決していなかったのだ。
絶望に打ちのめされるT.S.O.プレイヤーたち。
一方で、傍観者の特等席から突然当事者として舞台へと引きずり下ろされた三オン、H.B.O.プレイヤーたちの困惑が、巻き込まれたことに対する怒りへと変質するのに時間はかからず、その矛先は自然とT.S.O.プレイヤーに向けられていく……
◇◆◇
──僕たちがたどりついた場所はゴールではなかったのだ。
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