第57話 光の石に名を刻め
「もしかして、あれが、光の石ですか……」
サファイアさんの言葉を受けて皆の視線が石版に集中する。
三大ギルドのリーダーたちを先頭に、この部屋にいた全員が台座を囲むように集まっていく。
──一度きりのチャンス、
フェンランさんが半ば独り言のように呟いた。
「あの言葉通りなら、この石版に名前を記入することになるんでしょうが……」
視線を向けられたシグムンド
「むう……」
「何も起きないね、あたしも試してみるかね」
アンネローゼ様もシグムンド卿に場所を譲ってもらって石版に触れるがウンともスンとも言わない。
フェンランさんも同様だった。
その後、他の何人かのプレイヤーたち、中には戦闘に参加していなかった者もチャレンジしてみたが一切の反応は無かった。
「ということは、やっぱり」
「そういうことになるのかね」
サファイアさんとロザリーさんが僕を見る。
「え?」
キョトンと自分の顔を指さす僕に、アンネローゼ様が「やれやれ、しかたないねぇ」と肩をすくめる。
「ここはパーティ同盟のリーダー様の出番ってことだろ」
想定外の出来事に僕の頭の中が真っ白になった。
「え、ちょ、ちょっと待ってください、そういうことなら、今、権限を……え、えっとシグムンド卿で……」
慌てて情報画面を出そうとする僕をシグムンド卿が制してくる。
「その必要はない、いろいろ言いたいことはあるが、今回の戦闘の一番の功労者は君だ。その責任を最後までしっかりと果たすがいい」
その言葉に、助けを求めるように僕はWoZの仲間たちに顔を向けた。
それに対して、皆はそれぞれの表情で「ガンバレ」とか「やっちゃってください」とか「ヒューヒュー」とか無責任に
「ほら、とっとと腹を
ケラケラと笑うアンネローゼ様に勢いよく背中を叩かれ、僕はおぼつかない足取りで石版の前に立つ。
なんか、あとでものすごく高い利子をつけて請求されそうな気がする。
それはともかくとして、今は目の前の石版だ。
ゴクリ、と音を立てて唾を飲み込んでから、そっと、光り輝いている表面に手を触れた。
次の瞬間、石版から眩いばかりの光が放たれ、一番上に僕の名前が刻み込まれた。つづけて、その下に参加した他のメンバーたちの名前が三列に並んで刻み込まれていく……
「やったー これでクリアだってことよねー!」
くーちゃんの無邪気な声を皮切りに、周りのプレイヤーたちからも歓声が上がる。
だが、そんな僕たちをよそに石版から放たれる光はどんどん強くなり、あっという間に視界全体が白く染まってしまった。
「一体何が……!!」
誰かの叫び声が聞こえる。
次の瞬間、視界が完全に闇に落ちた。
☆
「何かあったの?」
僕は
再起動をかけてOS画面を表示させ、T.S.O.へのログインを試みたが、シンプルな[メンテナンス中のため接続できません]というメッセージが表示されるだけだった。
「クリアできたと思うんだけど、いきなりゲームから落とされちゃって……」
背後の陵慈へ答える間に、メッセンジャーから続々と着信の通知が飛んでくる。WoZメンバーの他、フェンランさんからのメッセージもあった。どれも急にゲームから切断されたこと、そして、再ログインができないという報告だった。
「なんかT.S.O.だけじゃないみたいだね」
陵慈が僕の端末にいくつかの画像を送りつけてきた。
「他のゲーム、三オンやH.B.O.もほぼ同時間に落ちたっぽい」
画像を確認すると、ゲームの公式サイトやゲームプレイヤーのコミュニティのスクリーンショットだった。それぞれ、障害発生の告知や、急にゲームから落とされたプレイヤーたちの不満などが並んでいる。
僕はHMDを再び外し、ベッドに腰掛ける陵慈の正面、自分のベッドに腰掛ける。
「これって、さっきクリアしたことが影響してるのかな……」
「わからないけど、もともと三つのゲームは同じシステムから派生してるしね、開発も関係会社だし、同じ量子サーバシステム内で運用されてるから、なんらかの原因でリンクしてても不思議は無いけど」
陵慈の話を聞きながら、手にした端末を操作して、いろいろな情報サイトへとアクセスしていく。
ゲームに接続できないという騒ぎが急速に拡がりつつあるが、それよりも盛り上がっているのが、さっきまでのT.S.O.のボス戦や最後の石版へのアクセスの動画だった。
石版が光り出してゲームが強制的にシャットダウンという流れから、現在の状況の原因に結びつけるコメントが多いのも仕方ないだろう。最後のシーン、僕やWoZのメンバーが中心にいたこともあって、さっそく身元の特定に動き始めている人たちもいる。
僕は必死に情報を見つけようと、思いつく限りのサイトにアクセスしていく。
そんな僕に陵慈が声をかけてきた。
「まあ、今慌てても意味は無いと思うよ。それに、窓の外見てみて」
その言葉に釣られて反射的に振り向く。いつの間にか空が明るくなっていて、三本の軌道エレベータ、ヤタガラスが朝日の光を全身に受けて白く光り輝いていた。
「たしか、朝一の便でオノゴロを出るんだよね。今から準備してギリギリだよ? あ、
改めて手の上の端末で時間を確認すると午前五時半を過ぎたところだった。
「ちょ、始発まで時間がないって……ヤバっ!」
慌ててクローゼットからスポーツバッグを引っ張り出して手当たり次第に着替えを詰め込んでいく。並行して
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