第17話 訃報
助けを求めるように視線をさまよわせる僕に、最初に反応したのは幼馴染みの少女だった。
くーちゃんが声を荒げる。
「ちょっと
「いやいや、ちょっと待って」
「そうよ、
ザフィーアがくーちゃんを制止する。
「そういう問題じゃない、それに今日の午前中は私たちずっと一緒に授業受けてたじゃない」
「やっぱり、そうかい……」
ザフィーアの言葉にロザリーさんが首を振る。
「最初、あたしもそう思ってアリオットに話しかけたり、ツッコミをいれたりしたんだけど、まるで微動だにしなかった。ソファーに座ったまま宙を見つめるだけで。イタズラにしてはセンスがないし、外に放り出そうかとも思ったんだけど」
ツッコミ返したいけど、話の続きが気になったので言葉を飲み込む。
「で、さっき、ぴーの君がここにきたとほぼ同時に、そのアリオットが動き出した。この意味、あんたならわかるわよね」
「……つまり、ログアウトしてても、ゲーム内のキャラクターはずっとそこに残っている?」
半ば反射的に呟くと、一瞬、みんなの表情が強ばった。
椅子に座っていたミライが少し考えこむように首をかしげる。
「んー……」
次の瞬間、リラックスした感じで椅子に座っていたミライが突然ピンと背を伸ばし、視線がやや上方、誰もいない空間に向く。
そんな姉の顔をのぞき込むジャスティス。
「お? おーい、ミライちゃーん、どうしたの……って、キャハハハハ! くすぐったい! ちょ、ちょっと!」
ジャスティスは突然笑い出したかと思うと、一瞬、動きが止まって、頭の上に
少ししてからジャスティスの動きが元に戻り、頭の上の警告マークが消えた。
「え? なに? ゲームの中にミライちゃんがいるかどうかって……」
そう呟きながらジャスティスはあいかわらず動かないミライの前でヒラヒラと手のひらを振りながら、僕たちとは違う方向、おそらくリアルに向けて返事をする。
「そこに座ったままだよ」
そのやり取りを見ていたクルーガーが小さく息を吐き出した。
「ミライちゃんは今、ログアウト状態なのね」
「うん、そうみたい……」
ログアウトしていても、キャラクターはゲーム内に残っている、ということは……
「確定ね、ログアウトするときは安全地帯じゃないとダメ。モンスターのいる場所で落ちちゃったりなんかしたら、知らない間に襲われて死んじゃって……」
「情報流出……?」
ロザリーの言葉を継いだイズミが泣きそうな表情を浮かべる。
というか、本気でシャレにならない。ここまで来たら、プレイヤー個人やギルドメンバーたちでどうこうできるっていうレベルを遥かに超えてしまっている。
だが、僕は自分自身を落ち着けるためにも、冷静に言葉を選んで口を開く。
「……うん、確かに大変だけど、ログアウトするときはマイハウスか、ギルドハウスにキャラクターを置いておけば、とりあえずは安心だと思う。あと、状況が改善するまではモンスターのいるフィールドには出ないこと」
そんな僕の言葉に全員が頷く。いつの間にかミライも戻ってきていたようだ。
ギルティがぎこちない笑みを浮かべた、弟なりにみんなを励まそうとしているのか。
「T.S.O.にはPKシステムはないですから、その点は安心ですよね、モンスターにさえ近づかなければ大丈夫ってことですから」
PKとは
「その通りだね」
弟に続いて僕もあえて笑顔を浮かべた。
「本当なら、ザフィーアとぴーののレベル上げとかつきあわないといけないんだけど、こんな状況なんで先送りだね、ごめん」
「気にしないで、今はそういう状況じゃないことくらいは理解してるわ」
苦笑するザフィーアに、全く問題ないよと手を振るぴーの。
「状況を整理しようか」
僕はあらためてみんなに声をかけてから、壁の一角にかけられている大きな黒板へと歩み寄る。普段はみんなの予定とか伝達事項を書く場所だが、いったん内容を全部消して、目立つように板書する。
1,ゲーム内でキャラクターが死亡すると、リアルに個人情報が流出してしまう
2,ログアウトしてもキャラクターがゲーム内に残るので、落ちるときはギルドハウスかマイハウスなどの安全なところで
3,しばらくの間は単独の行動は避けること
「あー、後でメールもしておくけど、アオにもこのことは伝えておいてくれる?」
双子に向かって声をかけると、二人は了解と手を上げて応える。
「さてと、あとはサファイアさんがインするのを待つだけだけど」
そう呟いて時間を確認しようとした時、本当に計ったようなタイミングだった。
サファイアさんがギルドハウスの入口から現れた。
「お待たせしてすみませんでした」
そう言うと、黒板の視線を向ける。
「その話をされていたんですね……」
「サファイアさんの話ってこのことなの?」
くーちゃんの問いかけに、頷いてから、ゆっくりと歩き出すサファイアさん。
いつもとは違い緊張した面持ちだ。
「はい、
「『この話も』っていうことは、まだ、なにかあるってことかい?」
ロザリーさんが空いている椅子の一つを指し示し、サファイアさんに座るように促す。
「はい……」
表情を強ばらせたまま、腰を下ろす彼女だったが、意を決して顔を上げる。
「……ラピスさん、
僕たちはその言葉の意味を咄嗟に理解することができなかった。
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