第16話 ゲームでの死、リアルの死
授業終了後、僕は
「おかえり、これからすぐにインするの?」
部屋に入ると珍しく
「……もしかして、待ってた?」
カバンと制服の上着を自分のベッドの上に放り出しながら尋ねると、陵慈は自分のベッドから
「話があったんだけど、いいよ、ゲームの中で話す」
そう言うと僕の返事も聞かずにヘッドマウントディスプレイを装着してゲームを起動してしまう。
慌てて僕も後を追った。
☆
──
ぴーのがぶっきらぼうに提示した情報で、ギルドハウスに集まったメンバーたちの間に戸惑いが拡がる。
「ええ? なにそれ? 意味わかんない!」
ジャスティスの叫び声が響き渡る。
その横でミライも言葉を失って立ち尽くしていた。
正直、僕も同じ気持ちだ。
だが、そんな感情の一切合切をスルーして、ぴーのが同じ内容を繰り返す。
サファイアさんに指定された時間には、まだ間がある。
だが、アオとサファイアさん以外のメンバーが早めに予定をすませてT.S.O.内にログインしてきており、全員がギルドハウスの広間にある大テーブルを囲むように座っていた。
アオからは「どうしてもバイトを休むことができないので、できるだけ早く帰宅して遅くなってもログインするが、もし判断が必要な事態になったら全部僕に任せる」というメッセージが届いていた。
今日、ずっとT.S.O.にログインしていたというロザリーさんが、ぴーのの話を肯定する。
「あたしもギルドハウスで留守番しながら、いろいろ調べてたんだけど、どうやらマジっぽいよ。他のギルドの知り合いにも確認してみたけどさ。一昨日から昨日にかけて戦闘で死んだキャラたちがログインどころかネットワーク自体に接続できなくなって、不具合じゃないかと騒がれはじめたところに、情報流出がって流れさ」
ロザリーさんは小さくため息をついた。
「ちょっとね、昔のツテが攻略系の大手ギルドにあってさ、その知り合いからの話なんだけど、昨日ちょうど高難度ダンジョンの攻略してたらしくて、結構な数のメンバーがやられちゃったんだってさ。魔法で蘇生させようとしたんだけど、手が回らずに後回しにしていたキャラが消えてしまって、そのプレイヤーはログインどころか連絡がつかない。そこで、リアルで付き合いのある人間が直接確認して、これは不具合じゃないかと運営に通報した矢先に、死んだキャラ全員、プレイヤーの情報流出が発覚して大パニック──そんな流れだったらしいよ」
「外の人たちがいなくなっちゃったのも、そのせいですかね……」
イズミは席を立つと、窓を開けて湖の方へと耳を向ける。
リアル時間とはタイムラグがあるので、今は夕陽の光が湖面に煌めいていた。
そこには昨日までの
「やっぱり人の気配はないですね」
「うん、ただ念のため、しばらくはギルドハウスの侵入制限はそのままにしておくよ」
少なくてもラピスの件が解決するまでは。
口には出さなかったが、イズミは察してくれたようだった。
クルーガーが低く
「それにしても運営会社はなにをしているんでしょうか。この事態、サービスを停止してもおかしくない、というか、止めるべき事態だと思うんですけど」
「止めたくても止められないとか!」
わざと明るく笑う、くーちゃん。
いや、おまえなりに場を和ませようとしてるんだろうけど。
「……ちょっとシャレになってないかも」
小さくため息をつきながら、ザフィーアが彼女の肩に手を置いた。
うん、付き合いは短いけど、それなりに性格を把握しはじめているのか。さすがは優等生タイプ。
「そこで、もう一つ気になることがあるんだけどね。ちょっと確認したいことがあるんだけど……アリオット」
ロザリーさんがいつになく真剣な表情で、僕に視線を向けてきた。
「昨日、最後までここ、ギルドハウスに残っていたのはあんただけかい?」
「え? うん……みんながいなくなったあと、設定とか確認してからここでログアウトしたんだけど、なにか問題でも……?」
「やっぱり、そうかい」
天井を仰いで一拍おく。
「昨日、あたしはギルドハウスから、いったんマイハウスに戻ってからログアウトした」
そのロザリーさんの言葉に、反射的に頷くメンバーたち。
全員が同じようにマイハウス、ギルドハウスとは別の自分専用のゲーム内の家を持っていて、たいていの場合、ログアウトはそこで行うのが普通である。
僕はギルドリーダーということもあり、ギルドハウスとマイハウスを兼ねている設定にしているのだが……
「でもって、今朝、リアルの方の家事を済ませてからログインして、午前中からギルドハウスに詰めていたんだけど……あんた、アリオットはずっとそこにいたんだよ。朝からずっと、そこのソファーに座っていたんだ」
「え?」
思わず絶句する僕。
僕のキャラクター、アリオットはログアウトしている間はゲーム世界からも消えているはず。
それなのに、ギルドハウスの中にずっと存在した──?
そんなことはありえないはず──と、僕は周りの仲間たちに救いを求める視線を向けた。
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