第18話 VRゲームハッキング事件①
◇◆◇
その日、オレはT.S.O.にログインすると、いつものクセでゲームを始めたばかりの初心者が訪れる、いわゆる初期エリアへと向かおうとしていた。
ギルドの中の役割が決まっているわけではないが、自分はギルド設立当初から新規メンバーの勧誘を
T.S.O.のサービス開始から、すでに数年が経っている。新規ではじめるプレイヤーも少なくなっていて、新顔のプレイヤーがいたとしても、大抵は誰かの紹介ではじめる形であり、完全フリーの新人にはなかなか出会えなくなっている。
それでも、オレにとって新しい出会いや、初心者を手伝うことの楽しみは、T.S.O.プレイの
今まで何人もの新規プレイヤーに声をかけ、楽しみを損なわない範囲で助言したり、レベル上げやクエスト進行を手伝ったり、その度に新しい絆が増えていく。
実際に今いるギルドメンバーのうち、過半数はオレの勧誘がきっかけでT.S.O.にハマったヤツらだし、結果として違うギルドに所属することになったものの、最初の声かけがきっかけで、未だに交流が続いているヤツらもいる。
もちろん、イヤな思いをしたことは一再ではないが、それ以上に得ることのできる充実感はリアル社会では得られないものだと実感している。
「んー、やめやめ、昔を懐かしむとか古参ウゼーとか言われるだけだぜ」
なんで、今日になって突然そんな気分になったのか。
まあ、リアルの勤め先で少しミスをしてしまったんだが、自分で思っているよりも
とにかく、気分を切り替えていこう! と、自分を励ましつつ、テレポートストーンを使って、登録しているゲートのひとつ【旅立ちの村】へと飛んだ。
複雑に絡み合ったさまざまな色の光が視界を駆け巡り、一瞬、全体が真っ白になってから、次第に見慣れた村の光景へと移行する……はずだった。
「!? なんだこれ、イベントでもあったのか?」
もう訪れる人も少ない、素朴な田舎町……だったはずが、それこそT.S.O.正式サービス開始直後を彷彿とさせるくらいの多数のプレイヤーたちの姿があったのだ。
「てか、なんかおかしくね?」
オレが違和感に気づくのにさほど時間はかからなかった。
なぜなら、一見して初心者とわかる彼らは微動だにせずに、その場に棒立ちになっていたのだから。
「なんなんだよ、これ」
一通り村の中を歩き回ったが、オレ以外に動いているプレイヤーはいなかった。
ふと、頭の中に一つの考えがよぎる。
「ってことは、もしかして……」
急いで村の外へとつながる門の方向へと走り出した。
村とはいえ、キャラクターを作成した後、はじめて降り立つことになる場所ということもあり、他の一般的な街や村よりも敷地は広く余裕を持ったつくりになっている。
それでも、さほど時間をかけずに門から外の草原地帯へと駆け出すことができた。
案の定、そこにも棒立ちのキャラクターたちが、あちらこちらに佇んでいる。
そして……
「マジかよ……」
思わず絶句してしまった。
初心者のレベル上げ用のモンスターたちが、棒立ちになったキャラクターたちに襲いかかっていたのだ。
もちろん、このエリアのモンスターのレベルは低くく、初心者装備状態、かつ操作に慣れていないキャラクターでも戦うのは難しくない。
だが、今、ここにいる初心者たちは、ただ立っているだけなのだ。モンスターたちに一方的に攻撃されるばかりで、体力を奪われ、そして、地面へと倒れていく。
「なんなんだよ、これは!!」
オレは慌ててギルドチャットのチャンネルを開いてメンバーたちに急を告げた。
◇◆◇
──VRゲームハッキング事件
当然のことながら、この事件は社会的にも大きく報じられることとなった。
近年
さらには、
当事者たちの間では、いつの間にか【トルネリア・ショック】と呼ばれるようになったこの事件。最初の被害者に多かったのは、ゲームをプレイしていたものの、飽きてしまったり、リアルの都合などで引退していたプレイヤーたちだった。
特にちょっとだけはじめてみたものの、初心者用のフィールドで止めてしまった人たちが被害に
サービス開始から数年経ち、初心者のレベル上げ用のフィールドはいわゆる
もちろん、初心者用の簡単なエリアということで、出没するモンスターのレベルも低い。だが、棒立ち状態でなにもできないキャラクターに対し、モンスターたちは容赦なく襲いかかっていく。
そのことに気づいた一部のプレイヤーたちが、声を掛け合って救出に向かったのだが、時すでに遅く、初心者用の武器や防具が散乱する光景を目の当たりにしただけだった。
本来ならここまでの事態になった以上、いや、なる前に運営会社による強制措置が行われるはずである。
だが、事態は予想以上に複雑かつ
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