そろそろこの日の本題に入りましょうか!
第481話 ボクタチナカヨシ、オハナシダイスキ
午後の会議も大事ない。やはり冒頭で隕石の件について触れられたが、例によって各々防いだようで、大事故に至ったという報告はない。一般市民もそこそこ強い、それが魔族社会の強みの一つでもあるかもしれない。
午後四時になると、今夕のアクエリカは一旦宿舎に戻ることすらせず、直帰する感じでユリアーナの修道院へ向かった。
そもそも荷物をほとんど置いてきてあるのだ。お供するデュロンも見送るヒメキアたちも、もはやなにもツッコまない。
「うわ、魔女とチンピラだ!」「またきたのかよー!」「かえれよー!」「ユリアーナ先生が優しいから……」「ずうずうしいぞー!」
この時間はいつもそうらしく、昨夕と同じように畑仕事に励んでいる子供たちは、一晩経ってもまったく二人に懐いておらず、総スカンを食らわせてくる。
もちろんそれで怯むアクエリカではなく、満面の笑みで丁寧に挨拶している。
「歓迎ありがとうクソガキども~、お礼に片っ端から喰ってやろうかしら~」
「ぎゃー、おにばばー!」「あくまー!」「石になる! 眼を合わせたら石になる!」「心が醜いんだー!」
「な~んですって~? わたくし綺麗なお姉さん~」
「アンタほんとここでは全然素の自分を隠さねーよな……」
「クソガキどもが街中でなにを吹聴しようと、わたくしの確固たるパブリックイメージは崩せなくってよ。だからこうして思う存分解放しているの。あぶぶぶ、べろべろばあ~」
「その顔ぜってー他では見せんなよ……」
ひとしきり悲鳴を上げて逃げ惑うクソガキどもを追い立てる遊びをした後、満足した様子のアクエリカは、今日も院の正面玄関で待ってくれているユリアーナのところへ到達し、威風堂々凱旋宣言をする。
「ただいま~、わたくしが帰ってきたわよ~」
「お帰りなさい。今そこでかなりひどい顔をしてましたよね、全部見てましたよ」
「……デュロン、ユリアーナの記憶を消しなさい」
「無茶言うな、アンタがはしゃぎ倒した結果だろ」
しかしそれでもまだはしゃぎ足りないようで、ユリアーナ相手にクソ亭主ごっこを始めるアクエリカ。
「あーあ、今日もわたくし会議会議で疲れているの。早めに食事にしてもらえないかしら」
「ユリアーナさんは院長としての仕事を果たしてんだよ、アンタは枢機卿たちを煽り散らかしてきただけだろうが」
「といっても時間がないでしょうから、簡単なパスタとかでいいわよ」
「またダメなこと言ってる……もうダメなことしか言わねーぞこの人」
「構いませんよ。でもパスタは茹でるのに時間がかかるので、アクエリカで出汁を取って待ちましょうね」
「ユリアーナさんも無理してこの人のペースに合わせる必要ねーぞ、言ってること無茶苦茶になってるし」
「先にお風呂に入れということかしら?」
「なんで蛇スープ扱いを受け入れてんだこの人も」
「冗談はさておき、まだごはんもお風呂も準備ができていないんですよ、ごめんなさいねアクエリカ」
「なんですって……? あなた自分でなにを言ってるかわかってるの?」
「はい?」
「自ら二つの選択肢を消しているのよ? いいこと? あなたはわたくしにこう訊くの。『ごはんにする? お風呂にする? それとも』」
「『ひ・る・ね?』」
「会心のインターセプトだ」
「わたくし今から昼寝をするわね~」
「素直さと睡眠習慣が五歳児なんだよな……」
とはいえアクエリカはわりと普段から、夕方になると眠くなっている様子が見られる。
いつも夜遅くまで執務を熟しているので、基本的に疲れが溜まっているのだろう。
「ごはんかお風呂か、ごはんとお風呂を混ぜたやつができたら起こしてね~」
「つまりスープパスタ……ってコト!?」
「なにを言ってるんでしょうかデュロンくんは」
「まったく意味がわからないし気持ち悪いわね」
「なんで俺にだけ冷てーんだよ、泳がせ方ひどすぎるだろ」
ともかくアクエリカは欠伸をしながら、自分に割り当てられた奥の寝室に入っていった。
ユリアーナもデュロンに目配せを残して、他のスタッフたちに合流していく。
「では私は準備がありますので、また後で。デュロンくんはどうします? アクエリカに添い寝でもしてあげますか?」
「あーあー、俺がイジっていいタイプの奴だってバレてるよ」
「フフ……あなたも疲れたでしょう、お茶でも飲んで休憩しませんか?」
「いや、ちょっと外に出てくるよ。上司がアレだから、俺が少しでもガキどもからの心証を回復しとかねーとな」
「ほんとにもう、ねえ……ごめんなさいね、あの子は昔からずっとああなんです」
「完全にお母さんじゃねーか」
「暗くなる前に帰ってくるんですよ?」
「俺に対してもお母さんじゃねーか。ちょっとやめてそういうの、よくわかんねーのに刺さってくるんですけど」
「えっ、興奮したんですか?」
「アンタだいぶアクエリ姐さんに頭やられてるから気をつけろよ」
そのときちょうど扉が開いて、見知った顔がまたしても、にこやかに覗き込んできた。
「やあ。デュロン・ハザークくん、だったね。ちょっと俺と外でお話ししないかい?」
ユリアーナには言葉通り、親睦を深めようという意味に聞こえたのだろう、軽く挨拶してそのまま奥へ引っ込む。
しかしデュロンの嗅覚由来の感情感知は、『表へ出な、ツラ貸せよ』と意訳していた。
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