第3話 こんばんは、どこか別の場所から来ました
デュロンとソネシエの奮戦を、他の5人も黙って見ているわけではない。
ソネシエの兄である吸血鬼の青年が青い炎を放ち、敵だけを精確に焼き尽くしていく。
竜人の女性が体表に鱗を張り巡らせ、格闘戦で圧倒する一方、特殊能力である固有の
個々の地力も集団としての練度も、
「な…なァーんなんだ、てめェらはよォー!?」
繰り広げられる光景に
「だから、ジュナス教の
ウォルコは軽い跳躍で後方空中回転しつつ、右足を思い切り振り上げた。
鋭い風切音とともに1発で顎を撃ち抜かれた
冷静に蹴りを放つウォルコの頭部が
ウォルコはすぐに元の姿に戻り、柔らかい笑みを浮かべて、温かみのある声で後輩たちを労う。
「よくやったよ。2人が斬り込み隊長を務めてくれたおかげで、ずいぶんと楽ができたぞ」
デュロンとソネシエは互いに目配せした後、ウォルコに向き直って苦言を呈した。
「アンタほんとに楽してたからな…なに最後おいしいとこだけ持ってってんだ」
「隊長は2人もいらない。よってわたしこそが真の隊長さん」
「テメーはテメーでなににこだわってんだ、さらに縮めるぞおちびさん」
「あなただって自分の身長を気にしている」
デュロンとソネシエが無意味に張り合っていると、ウォルコが取り成してきた。
「まあでも、早く済んで良かったよ。さあ、撤収だ。デュロン、そっちの奴らを縛って運んでくれ」
「あ、あの……」
指示に従おうとしたデュロンの袖を、生贄にされかけていた少女の1人が引いてきた。
少女たちも全員が魔族であり、話しかけてきた子は人魚だった。
尾鰭で器用に立つ彼女はガタガタと震え、血の滲む自らの細腕を、次いで台座に据えられた水盆を指差す。
先ほどまでは凪いでいた水面が泡立ち、茫洋とした暗黒物質を吐き出し始める。
やがてそれは空中で収束し、巨大な猫の影を浮かび上がらせた。
忘れていたわけではないのだ、自分たちがなんの現場へ踏み込んだかを。
しかし悪魔崇拝教団という字面を、単なる狂信集団と捉えていたことは油断だ。
この世には彼ら魔族が既存する。なら悪魔も、常識の埒外にいるわけではない。
【にゃーっはっはっは! 我、降臨ぞ!】
どことも知れない異界から響く声は、水盆の上に浮かんだ影絵を波立たせる。暗黒物質の中に
【やあやあ我こそは、第33の悪魔ガミブレウぞ!此度は捧げられた血贄の質も量も足りぬゆえ、このような形で挨拶のみになってしまうが、いずれ貴様らの前に脅威として立ちはだかるであろう!】
気圧され、今さらながらに構える
【良き器ぞ、デュロン・ハザーク。罪の子よ、さらなる精進を求む】
唐突に名指しされて怯むデュロンをよそに、猫の影は高笑いとともに蒸発していった。どうやら本当に出てきて喋る時間しかなかったようだ。
残った静寂の中で呆然と佇むデュロンの肩を、力強い手が優しく叩いて言った。
「とにかく、やることはやった。早めに撤収し、このことも含めて報告しよう」
「あ、ああ……」
ウォルコの提案に従い、デュロンは
確かに人間は絶滅した。最弱の天敵が姿を消し、魔族たちの理想郷が築かれた。
それでもなお、彼らの受難は続くようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます