第92話
「あ、ははは、子供どころか結婚できるかもわかりませんけど……」
その気になったらすぐのような気がするけどなぁ。仕事もちゃんとしていて家族思いでかっこいい。子供っぽい趣味があっても趣味に理解がある人もたくさんいるだろうし。何が問題なのだろう?
「大丈夫ですよ。和人さんは素敵な方なのですから。結婚したいと思ったら、すぐに相手が見つかりますよ」
「だけれど、もう他の人のもの……では……」
「え?」
不倫っ。そういうことなの?これだけ素敵なのに結婚していないのは、不倫をしているから?いえ、実際関係はあるかわからないけれど、結ばれない人に恋してるの?二次元嫁……ってことはないだろうから。年が離れすぎているとか人妻だとか……振られた相手をずっと思っているとか……。
「あ、いや、何でもないです。えーっと、その、は、春子さんこそ素敵ですよ」
なっ。不意打ちで素敵とか。
「いろいろ気が付かせてくれる。そうですよね。障害を持った人が旅行をするだけじゃない。障害を持った人が家族や友人と旅行をする……。そんな当たり前のこと、気が付きませんでした」
あ、はい。私の考えが素敵ってことですね。ええ、はい。私が女性として素敵という話ではないのに。勘違い……はしないけれど心臓に悪い。……あれ?なんでこんなに心臓に悪いの?私は、男性として社長を素敵だと思ったから?だから同じような気持ちで言葉を口にしたんじゃないかと一瞬でも思った?
え?何を言ってるの?私、男性として社長を素敵?ちょっと待って、なし、なし、今のなし!
「離れ、すべてをというわけにはいきませんが、いくつかは完全にバリアフリーを考えることにします」
社長がにこりと笑ってこちらを向いた。
「あ、はい。車いすで利用できる広いトイレはまだ一人ではトイレが難しい子供を連れて利用するのにも便利だと思いますし、いろいろな段差がないと、小さな子供も転んだり転落したりの心配が減っていいと思いますっ」
「言われてみればそうかもしれませんね」
社長の顔をまともに見られなくて、ドギマギとする胸を必死に抑えながら、頭の中に浮かんだ言葉を早口で口にする。
「あの、うちには福祉住環境コーディネーターもいますので、相談していただければ提案もできるかと」
と、とっさに営業の言葉が出た私、よくやったよね。うん。
「そういえば、リフォームを頼まれることで段差を解消することと手すりを家のいたるところに着けてほしいと言うものがあるんです」
「手すり?」
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