第91話

 そういえば優斗には祖父母もいない。父親もいない。従妹もいない。……兄弟も。私がなくなったら一人になっちゃうんだ……。ううん、違う。仲のいい友達もいるみたいだし、これから彼女もできて結婚もするかもしれないし、一人で生きていくわけじゃない。

「車いすを利用している方は本館を利用してもらう……と。駐車場からの移動も便利だし、バリアフリーのトイレもあるし……快適に過ごしていただくことができ……るわけないよな。私のことはいいからあなたたちだけで行ってらっしゃいと、本館よりも別館がいいでしょうと……遠慮するかもしれない。車いすの自分が足かせになって何か制限を受けてしまうと……せっかくの旅行なのにと……楽しんでらっしゃいと笑って送り出すんじゃないか……」

 社長がぐっと唇をかみしめた。

「素敵なご家族ですね」

 お互いを思いあう。相手のことを考えられる。

「あ、ああ。両親も妹も仕事があるからと家庭を顧みないような人間でないよ」

 うん。きっと、愛されて育ったんでしょうね。社長。

「社長も……いえ、和人さんも素敵ですよ」

 ご両親が楽しめないと思って悔しそうな顔を見せるくらい、家族を大切にしているんですもんね。

 社長が、私から顔を思いっきりそらした。うっすらと耳が赤くなってる?照れてる?

 言われ慣れない言葉?

 素敵なんてたくさん耳にしてるんじゃないのかな?それとも、家族のことを話すのは恥ずかしいとか?

 そういえば、男の子って思春期すぎると母親と一緒に歩いているところを友達に見られるのが恥ずかしいとかそういうのあるよね?

 って、社長は思春期を過ぎた男の子じゃないのに。つい、かわいいなんて……。

 ああ、だめ。もう、私ったら。何考えてるのっ!

「僕は、両親に心配をかけてばかりですよ。いい年して……子供みたいな趣味だし、妹にも呆れられてるし……」

 子供みたいな趣味?

 何が好きなんだろう。でも……。

「子供みたいな趣味があれば、子供が生まれたら一緒に楽しめますよね」

 真さんはオタクではなかったけれど、もしオタクだったら優斗と一緒にアニメや漫画の話で盛り上がれたのだろうか?

「本屋にあの人来てたよ!」

 優斗の言葉を思い出す。

 本屋で困っているときに助けてくれた男の人。大人の男の人に親切にされて優斗はその人が大好きになったようだ。時々本屋で見かけるだけなのに、その人が買っている漫画を見ては同じのを買ったりしている。

 趣味が同じお父さんのような人……いや、お兄さんかな?子供と一緒に楽しめるなんて子供もきっと幸せだ。

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