第86話

「0歳、3か月、半年、1年……一口に乳児や幼児といっても、生後どれくらいかで全然違うんです。ですから、順を追って知ってもらおうかと」

 私の言葉に社長が小さく頷いた。

「そうですね。赤ちゃんとひとくくりにして考えるところでした。……しかし、そんなに違うものですか?」

 社長が首をかしげる。

「ふふ、そうですね、首が座るまでは、赤ちゃんは横抱きが基本ですし、ベビーカーや抱っこ紐などもそのための物が必要になります」

「え?」

「ほら、生まれたての小さな赤ちゃん。こうやって抱っこしているの見たことないですか?」

 と、小さな赤ちゃんを横抱きにするポーズを見せる。

「首が座るまでは、首を支えないといけないので、腕に首を乗せて抱っこするんです。それから、首が座ればこう、普通に抱っこできるんですよ」

「ああ、そうなんですね。全然知りませんでした。確かに、言われてみれば少し大きな子は横に抱っこしてませんね、重たいからかと思っていたんですが、重さは関係なかったんですね……」

 感心したように東御社長が頷いた。

「重さですか?東御社長なら、女性を軽くお姫様抱っこできちゃいそうですけど」

 身長が180以上あって、太っても痩せてもいない東御社長を見上げる。

「あー、いや。あまり運動は得意ではないので……多少は鍛えていますが……よろけてみっともない姿を見せてしまうかもしれません……。でも、そうですね……深山さんをお姫様抱っこできるような男になるために、今度からトレーニングルームを利用してみようかな」

 恥ずかしそうに東御社長が首筋をかいた。

「え?私をお姫様抱っこ?」

 思わず東御社長の腕に抱き上げられ、東御社長の頭の後ろに手をまわしている姿を想像してしまう。

 やばい。馬鹿な想像をした。東御社長は会話の流れで私の名前を出しただけだろうに。

「あー、ほら、あそこです、まずはあそこに行きましょう!」

 社長の前に2歩出て早歩きを始める。顔を今は見られたくない。

 駅から歩いて5分ほどのところにある3階建てのビル。

 赤ちゃん用品のお店だ。西〇屋よりももっと生まれたての赤ちゃんのための品が充実したお店。

 店にはいると、1階には日常よく使う赤ちゃんの用品が置いてある。おむつにミルクに……。

「これはいい。確かに知識ゼロの僕向けですね。ありがとうございます」

「よかったです。あの、まずは上でベビーカーを見ませんか?その……今回の話のきっかけなので……」

 東御社長がもちろんと頷く。

 2階はベビーカーやベビーベッドなどの売り場だ。3階は出産祝いに使えるような贈答品やこいのぼりやひな人形の売り場になっている。

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