第87話

 2階はベビーカーやベビーベッドなどの売り場だ。3階は出産祝いに使えるような贈答品やこいのぼりやひな人形の売り場になっている。

 エレベーターで2階に上がると、すぐにいろいろなベビーカーが並んでいるのが目に入る。

「いろいろ種類があるんですね」

 パッと見ただけでもタイヤの大きさや座面の高さなどで違いが分かる。

 その中の一つを手に取り押してみる。

「私がつかっていたのはこんな感じのものです。タイヤも大きくなくて、荷物を入れる場所もそれほど大きくない。えっと、確かこうして首が座る前には寝かせて、対面に押すこともできるようになってるんです」

 そういえば、首が座る前には何かそれ用の頭ガードだったかな、オプションもあった気がする。もう記憶があいまいだ。

「あ」

 東御社長がベビーカーの一つに赤ちゃん人形が座らせてあるのを見つけ、手に取った。

「思ったより重たい……」

「ほら、こうして抱っこするんです」

 雑に片手で人形を持ち上げている東御社長の腕に手を添えて、抱き方を教える。

「頭をここに乗せて腕で支えてあげてください。この人形はどれくらいの重さなのだろう」

 だいたい生後3~4か月、重さは7~8キロくらいまでは横抱きだっけ。

「こちらの人形は、3キロですよ。だいたい生後すぐの平均的な赤ちゃんの大きさになってます」

 近くにいた店員さんが声をかけてくれた。

「もうママは教室で抱っこの仕方もしっかり習っているのかしら?パパも上手ですよ」

 ええ?

「マ、ママ?」

 私がママで、東御社長がパパ?!

「いえ、あの、そのっ」

「ご予定日はいつ頃かしら?楽しみね」

 ニコニコと笑顔で話しかけられる。

「何も知らなくて、ベビーカー、おすすめはどういうものですか?」

 違うと否定できずにいると、社長が店員さんに話かけた。

 店員さんが近くにあるベビーカーからいくつか説明を始めた。

 あー、やっぱり私がつかっていたころとは全然違う。

 東御社長が真剣に店員さんの説明を聞きながら、人形を乗せて店の中を少し押してみたりしている。

 ふと、真さんとベビーカーを選びに来た時のことを思い出した。あの時は二人とも若くて収入も少なかったから値札をまず見てたっけ。

「ごゆっくり。また分からないことがあれば声をかけてくださいね」

 店員さんが離れてから、東御社長が一つのベビーカーを押して私の前に来た。


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